ガーデン・プラントへ
その後、ヴィルはガーデン・プラントまで送ってくれた。
「校内とはいえ、あのふたりがいつミシャに接近してくるかわからないからな」
ルドルフとジルヴィードはヴィルから不審者扱いを受けている。
まあ、神出鬼没なところといい、周囲の人達に迷惑をかけることといい、そんなふうに思われるのは無理もないのだが。
ガーデン・プラントに戻ってくると、今日も今日とて温室仕事をしてくれる魔法生物達がやってくる。リーダー格のチンチラが一番に到着した。
『おかえりなさい!』
「ただいま!」
わらわらと私の周りに集まってくる様子は愛らしいとしか言いようがない。
ただ彼らが私のことが大好きだから、このように出迎えをしているわけではないことは承知している。みんな、報酬のお菓子が欲しいのだろう。
「今日も頑張ってくれたかしら?」
『もちろん!』
そう言って採取した薬草や抜いた雑草などを掲げて見せてくれる。
「みんな、いい子ね」
チンチラの顎の下を撫でてあげると、次々と撫でてほしいと列を成す。
彼らは自分の舌先が届かない場所を撫でられるのを好んでいるのだ。
ジェムの中に収納していたクッキーを配ってあげると、飛び上がって喜んでくれた。
その様子を見ていたヴィルが、ボソリと呟くように言う。
「ここでの労働を行えば、ミシャから菓子が貰えるのか?」
「いえ、その、対象は私と契約している魔法生物だけなんです」
お菓子が食べたいのであればいつでもお出しします、と言ったら思いがけない言葉が返ってくる。
「彼らがこのように頑張っている手前、私だけ無償で菓子を貰うわけにはいかない」
そう主張し、何か仕事はないかと真剣な眼差しを向けつつ言ってくる。
「で、でしたら、その辺の雑草を抜いていただけますか?」
「承知した」
ヴィルはモモンガから麻袋を受け取ると、その場にしゃがみ込んで雑草取りを始めてしまう。
私がお願いしたことだが、天下の監督生長であり、未来のリンデンブルク大公になんてことをさせているのか、と頭を抱えてしまった。
早くお菓子の用意をして止めさせないと、と思っていたらモモンガがスカートの裾をくいくい引いて話しかけてくる。
『荷物、届いた。家の前に置いているよ』
「まあ、ありがとう」
いったい何が送られてきたというのか。確認にいくと、家族からだった。
箱を開くと、スノー・ベリーの甘酸っぱい匂いがする。
「わあ!」
ルビーみたいな美しいスノー・ベリーだった。そういえばラウライフでは今のシーズンがスノー・ベリーの旬なのだ。
手紙にはクレアの文字で、家族みんなで摘んだと書いてある。嬉しくって、手紙を抱きしめた。
ここでジェムが触手を伸ばし、私の肩をポンポンと叩いた。
口をパカッと開いているので、スノー・ベリーを食べたいのだろうか?
ひとつ摘まんで食べさせようとしたら、口が素早い動きで閉ざされる。
「スノー・ベリーが食べたいんじゃないの?」
違う! とばかりに赤く点滅していた。まるで警告か何かを告げるようなカラーだ。
いったいどうしたのかと思いきや、ジェムの触手が伸びた先は手紙である。
「もしかして、手紙を収納したいの?」
そう問いかけると明るく光る。
「ジェム、あなた、まさか家族からの手紙に嫉妬したの?」
尋ねたタイミングでジェムは手紙をぱくんと呑み込んだ。
その後、まるで咀嚼するかのような動きを見せるので、手紙をバラバラにしたのでは、と思ったが、確認したらきれいな状態で保管されていた。紛らわしいことをしないでほしい。
そんなことはさておいて。
スノー・ベリーをいただく。噛むと果汁がじゅわっと溢れ、爽やかな香りと甘さが口いっぱいに広がる。
「うん、今年もおいしい!」
こんなに甘いということは、ラウライフは厳しい寒さなのだろう。
極寒の中でスノー・ベリーを摘んでくれた家族に感謝しなくては。
「そうだわ! このスノー・ベリーでお菓子を作りましょう!」
さっそく調理に取りかかる。




