ジルヴィードの言い訳
ルドルフに続いてジルヴィードにまで出会ってしまうなんて。まったくもってついていない。
ヴィルは何を思ったのか私の手を取り、守るようにぎゅっと抱きしめる。
その様子を見てジルヴィードは余裕たっぷりな様子で笑った。
「大丈夫だよ、君の婚約者は取らないから」
「信用ならない」
「酷いなあ、落ち込んでしまうよ」
そんなことを言いつつも、まったくダメージを受けているように見えなかった。
まさか魔法学校で彼と再会するとは夢にも思っていなかったわけである。
「どうしたの? 何か聞きたげな様子だけれど」
「いえ、その、どうして魔法学校の教員なんかになったのですか?」
「それはある意味君のせいかも」
「私が何をしたというのですか?」
「ほら、リジーと婚約破棄しただろう? その影響でこの国への長期滞在が難しくなってさー」
私がリジーの悪事について嗅ぎ回り、糾弾していたのを把握していたようだ。
「まあ、あの子と夫婦になっていたらとんでもない新婚生活を送ることになるから感謝はしているんだけれど」
任務に女性を絡めると面倒だと気付いたようで、新しい婚約者を立てるのではなく、就労入国査証を取得し、長期滞在ができるようにしたのだという。
「なんか、宝石魔法を使える人が希少らしくてさ。独学で覚えた趣味レベルの実力なのに大歓迎されてね」
授業用の宝石もジルヴィードが提供するというので、魔法学校側は大歓迎となったらしい。
「その睨むような眼差し……もしかして歓迎されてない?」
少なくとも私は歓迎していない。ヴィルも同じ気持ちなのだろう。
不審者を見るような眼差しを向けていた。
「君達と同じ目を、エルノフィーレ殿下もしていたのだけれど」
「その、エルノフィーレ殿下にご説明してからやってきたのですか?」
「いいや、サプライズをしようと思って、言っていなかったんだ。びっくりするくらい、喜んでいなくてさー」
ジルヴィードとリジーに関する問題が一段落したあとだったのに、問題の片割れがやってきたとなったら、エルノフィーレ殿下もさぞかし驚いただろう。
お気の毒にとしか言いようがない。
「このあとエルノフィーレ殿下に呼びだされてさ、食事に誘われたんだけれど、もしかしたら歓迎会じゃないのかな?」
説教だと思う、というのは言わないでおこう。
「は~~~、ただでさえ調査が行き詰まっていて、お祖父様からの追及が厳しいっていうのに」
調査というのはサーベルト大公の身内の子を探してくるように、というものだろう。
「こーーーんな広い国で親戚を探せって無理なんだよ。もういっそのこと、リンデンブルク公子が従甥ってことにして、一緒にお祖父様のところまできてもらえないかな」
「親戚関係なわけがないから、断る」
「またまた~~。こんなにそっくりな人達って、いないと思うんだけれど」
本当にヴィルとジルヴィードは見れば見るほどそっくりだが、雰囲気はまるで異なる。
ヴィルは月のように静謐な空気をまとっているならば、ジルヴィードは太陽のようにさんさんとした明るい空気をまとっているのだ。
「だったらさ、血液だけでも提供してくれないかな? それを使って血縁関係の証明ができるみたいなんだ」
遺伝子鑑定のような魔法が存在するという。
「従甥を探しているのはそちらの都合だろうが。なぜ、私が協力しなければならない」
「それはたしかに!」
ジルヴィードはあっさりとヴィルの主張に同意する。
「じゃあさ、どっかで出血したなー、みたいなことがあったら連絡してくれる? あ、だめ? そっかー、残念」
まったく残念そうにしない様子で言ってくれるものだ。
その後、ジルヴィードは「わあ、エルノフィーレ殿下との約束の時間だ!」と言って去っていく。
少し立ち話をしただけだったのに疲労がとんでもない。それはヴィルも同様で、深く長いため息をついてしまった。




