ルドルフの想い
本当になぜそのような思考回路になったのか問いただしたい。
これまでリジーと結婚するつもりであれこれやってきただろうに、今になって私しかいないとか言うなんて。
ルドルフはわかっていない。
その想いは愛なんかではなく、都合がいい存在に依存したいだけ。リジーの裏切りに遭い、捨てられた上に子どもは最初から妊娠していないと言われて、心の拠り所と頼る相手を確保したいのだろう。
ただそれを今言っても、ルドルフはきっと認めない。だから言わないでおく。
「僕のほうが、ミシャのことをわかっているんだ! ずっと見ていたから」
「リジーを選んで私を第二夫人に据えようとしていたあなたに言われたくないんですけれど」
「そ、それは、ミシャに出産をさせたくなかったから!」
私に出産させたくないというのはどういう意味なのか。
「妊娠したら仕事量が減るとでも思ったのですか?」
「ち、違う! 出産は命がけで、死ぬこともあるって母さんが昔言っていたから、ミシャに辛い思いをさせたくなかったんだよ」
それについては初耳である。だからと言って、これっぽっちも心が揺れ動くことなんてなかったが。
「リジーは出産して命を落としてもいい、という言い方にも聞こえるのですが?」
「それは――彼女は強い女性だから大丈夫だと思って」
そんな主張が出産に通用するわけがない。
最初から言っていることが支離滅裂である。冷静に会話ができる状態ではないだろう。
ホイップ先生もそう判断したようで、ルドルフに罰則について言い渡す。
「あなたの事情はよくわからないけれど~、これ以上生徒につきまとうようであれば、強制解雇になるわあ」
「そんな! せっかく見つけたまともな仕事なのに!」
「職を失いたくないのであれば~、これ以上、ミシャに話しかけようとしないこと~」
仕事か私か、ルドルフは天秤にかけているのだろう。
「もう、リジーの実家と酒場の仕事には戻りたくない」
「だったら二度とミシャに近づかないことねえ」
学校内、学校外、関係なく接近は禁じると言ってくれた。
「わかったかしら~?」
ルドルフは肩を落としつつ、こくりと頷いた。
ホイップ先生が退室するように言うと、ルドルフは何か言いたげな表情で私を見つめつつ、教室からでていった。
ぱたん、と扉が閉められ、足音が遠ざかって聞こえなくなると、はーーーーと深く長いため息をついてしまう。
「これでよかったかしらあ?」
「ホイップ先生、ありがとうございます」
「いえいえ~」
今回はヴィルの睨みも利いていたので上手くいったという。
「私だけだったら、反抗されていたかも~」
「いや、充分強い圧を放っていたような」
ヴィルの言葉に私も頷いてしまう。今回はヴィルとホイップ先生、ふたりの功績だろう。 今後、ルドルフが私に接触してこようとしたら、即解雇の手続きを取ってくれるらしい。
「これは魔除けのお札よお」
差しだされたのは、緊縛効果のある魔法巻物だった。
ルドルフが誓約を破って私に近寄ってきたら使っていい、と許可してくれた。
ヴィルも何か魔法巻物を握っていたようだったが、それは対象を塵と化す魔法が付与された物で、人相手に使えるものではなかった。
ホイップ先生に「それはしまいなさいねえ」と注意され、素直に従っていた。
その後、ホイップ先生と別れてヴィルと一緒に下校する。
「これでひとまず安心ですね!」
「あの男がミシャを諦めたようには見えなかったから、心配は残るが――」
ぴたり、とヴィルが歩みを止めたので何かと思えば、前方からジルヴィードがきていたようだ。
改めて見ても、ふたりは生き写しのようにそっくりである。
ジルヴィードはにっこり微笑みかけ、「奇遇だね」と話しかけてきた。




