ルドルフの主張
放課後、ヴィルはルドルフとの面会の席をセッティングしてくれた。
場所は誰もいない教室。ヴィルが何かやらかさないか心配になったのか、ホイップ先生も同席していた。
私を囲むように右側にヴィル、左側にホイップ先生が陣取り、正面にルドルフがいた。
ヴィルとホイップ先生の圧に押されてか、ルドルフは目をショボショボさせながら着席していた。
「私はヴィルフリート・フォン・リンデンブルク。この学校の監督生長だ」
「なんと、魔法学校の理事長のご子息でもあるのよお」
その説明を聞いたルドルフは、ただでさえ悪い顔色をさらに悪くさせていた。
「それでえ、あなたがミシャを追いかけ回していたって聞いたんだけれどお」
「間違いないな?」
まるで尋問のように厳しく問い詰め始める。ルドルフは額に汗が浮かんでいた。
ルドルフにとっては蛇に睨まれた蛙のような状況である。
「あの、その、ミシャに伝えたいことがあって、声をかけただけで」
「だったらそれをこの場で聞かせていただこうかしらあ」
「早く言ってくれ」
にこやかなホイップ先生と、怒りの形相を浮かべるヴィルと、まるで対称のような二人である。
「いや、あの、他人がいるような場所で言うことではないので」
「あらあら、だったら誰もいない場所に連れ出してお話しするつもりだったのお?」
「助手とはいえ、生徒をそのように呼びだすのは許されるものではないのだが?」
ホイップ先生とヴィルが効率的にルドルフを追い詰めてくれる。さすがだと思った。
「もうここで言ってしまいなさいなあ」
「ミシャにつきまとわれたら困るからな」
「あ、あの、その前にお聞きしたいことがあるのですが?」
ルドルフがヴィルのほうを見るので、腕組みして「なんだ?」と言葉を返す。
「ホイップ先生はわかるとして、あなたはどうしてこの場にいるのですか? それにミシャのことを呼び捨てにするというのは、いささか馴れ馴れしいと思うのですが」
ルドルフの疑問に対し、ヴィルはフッと鼻先で笑った。
「馴れ馴れしいも何も、私はミシャの婚約者だからな」
「え?」
ルドルフは本当なのかと私を見つめる。迷子の子どものような顔で見ないでほしいのだが。
「ミシャ、何か言ってくれ。本当に彼と婚約関係にあるのか?」
「はい、間違いないです」
「そんな、他人のような態度で返さないでくれ」
「いいえ、あなたはもはや他人です」
ショックを受けているようだが、先に私を裏切って突き放したのはルドルフのほうだ。
今さら仲よくなんてできるわけがない。
「ふたりっきりで話すのは諦めて、ここで言いなさいな~」
「今日みたいにミシャに接近するようなことがあれば、校長と理事に報告するからな」
最後の機会だと思って話すといいと言われ、ルドルフは振り絞るような声で話し始める。
「実は、こうしてここにやってきたのは、ミシャに会うためだったんだ」
「リジーではなくて?」
「リジーなんてどうでもいい」
まさかの発言である。リジーに捨てられて未練たらたらな状態だと思っていたのに。
「王都にやってきて、いろいろあったんだ」
なんでもリジーの父親を頼ってきたようだが見つからずに、リジーの母方の実家に滞在することになったのだとか。
「リジーの実家でこきつかわれて、ミシャがくれた金貨も彼女に使い込まれて、酷いことばかりだったんだ」
まあ、そんな感じだったのだろうな、とルドルフの境遇は安易に想像できる。
「でも、子どものために頑張ろうって思っていたのに、リジーは妊娠していなかったんだ!」
その辺の話はリジー本人から聞いていたのだが、なんとも気の毒な話である。
「そもそも僕はリジーと夜を共にしていなかったんだ! 怪しい薬をかがされて、利用されていただけなんだ!」
真実の愛がどうこう訴えていたのに、結局はそれもまがい物だったわけである。
「僕は目覚めたんだ。ミシャしかいないと」
「どうしてそうなる!!」
ヴィルの鋭い突っ込みが入った。




