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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・四章 調査、調査、そして調査

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それから

 その後、リジーのカビだらけの石鹸は回収され、処分となった。

 リジーはエルノフィーレ殿下の侍女の座から降ろされ、王宮の貴賓室暮らしも終わった。その後、ツィルド伯爵夫妻に禁じられていた夜遊びがバレて、現在は屋敷で謹慎しているらしい。

 私は父に手紙をだし、リジーのやらかしについて報告した。

 調査したところ、雪白石鹸は雑貨店の息子ドニーが勝手にリジーに送った物だったらしい。父は責任を取って、雪白石鹸の代金を立て替えたそうだ。

 後日、ツィルド伯爵に請求書を送るつもりだという。

 リジーが熟成していない危険な石鹸を売りつけた件については、ゴシップ誌から記事がでてしまった。

 酒場にいた客の中に記者がいたのだろう。室内での会話は聞かれていなかったのだろうが、リジーを屋敷に帰そうとしているときにわめき散らしたため、周囲に事情が筒抜けになっていたようだ。

 その記事をジルヴィードが読んだからか、リジーはサーベルト大公家から婚約破談の申し入れが届いてしまったという。

 建前はお願いとしているが、婚約関係を解消しろ! という圧力がかかっているのは明らかだった。

 後日、正式にリジーとジルヴィードの婚約は取り消しとなったようだ。


「ミシャ・フォン・リチュオル、あなたのおかげで無事、願いが叶いました」

「本当によかったです」


 エルノフィーレ殿下はやわらかく微笑む。

 ここ数日、リジーの石鹸を使ったことによる療養期間として数日休んでいたエルノフィーレ殿下だったが、明日から復帰するという。

 私はアクア寮のエルノフィーレ殿下の部屋に招待され、こうしてお茶とお菓子を囲んでいたわけだった。


「実は、サーベルト大公家からジルヴィードと結婚しないか、という打診を受けたんです」


 レナ殿下やヴィルとの結婚を見込めないので、いっそのことエルノフィーレ殿下と結婚させよう、という目論みなのだろう。

 リジーと婚約破棄したばかりなのに、なんという変わり身の早さなのか。


「とても嬉しかった。サーベルト大公家の役に立てるなんて、この上ない光栄だ――なんて、以前のわたくしならば思っていたでしょう」


 今は違うという。


「ジルヴィードと婚約を結んだ途端に、国に帰るように命じられることはわかっているんです。それに彼と結婚してもいいように利用されるだけですので」


 それが王族の務めだとわかっていても、魔法学校に通っている間だけは誰にも邪魔されたくないという。


「わたくし、あなたを見ていて気付いたんです。苦しい状況に立たされているのに、何もしないのは損だ、と。勇気を振り絞って行動を起こしたら、奇跡が起こるかもしれない」


 ただただ大人の事情に流されるより、自ら思うままに動いたほうがいい。エルノフィーレ殿下は気付いたという。


「婚約はお断りし、わたくしは政略結婚できるお相手を探します、と意志を示しました」


 エルノフィーレ殿下はすっきりした表情で語る。

 リジーを侍女に迎えたこと、ジルヴィードが婚約してしまったことなど、心の中に不安や憤りが溜まっていたに違いない。

 それを自らの力で発散させることができたのだろう。


「これまでのわたくしは毎日王女として正しく在ろうと思うのに必死で、魔法学校で魔法を習いたい、と思うこと以外にやりたいこともないのですが……。目標や夢などもないので、他の生徒からはわたくしなんて滑稽に思ってしまうかもしれません」

「そんなことありません。魔法学校に通う生徒達は、夢を探しにきている人も少なくありませんから」

「夢を探す……なんだかわくわくするような言葉ですね」


 魔法を習ううちに、やりたいことが見つかるかもしれない。


「仮に見つけられなくても、魔法を習ったことは人生において大いなる実りとなるはずなんです」

「そう、ですよね。ありがとうございます」


 エルノフィーレ殿下は私の手にそっと触れる。


「以前、あなたに侍女になってほしい、と言った話を覚えていますか?」

「え、ええ、もちろんです」


 その話題がついにきたか、と思う。

 たいへん光栄な話だが、私は今、国王陛下の食事係を担っている。エルノフィーレ殿下の侍女をやる余裕はないのだ。

 お断りしよう、と思っていたのだが、エルノフィーレ殿下は思いがけないことを言ってきた。


「その話は撤回してもいいですか?」

「はい、もちろんです」

「よかった」


 ひとつ、お願いがあると言われ、私は居住まいを正す。

 いったいなんだろうか。少し身構えてしまった。


「わたくしと、お友達になっていただけますか?」

「私でよろしければ」

「ありがとう!」


 エルノフィーレ殿下は私を抱きしめ、感極まった様子でいた。


「これからもよろしくお願いします、ミシャ」

「は、はい!」


 私に新しいお友達ができた日の話であった。

 

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