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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・四章 調査、調査、そして調査

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仕返しを

 こんなにカビた雪白石鹸を見るのは初めてである。

 幼少期から雪白石鹸の管理は厳重に、と両親から口を酸っぱくするほど言われていた。

 まさかここまでカビだらけになるなんて……。

 王都はラウライフに比べて湿度が高い、というのもあるのだろう。

 雪白石鹸は領民の間だけ使うものだという認識だったのだが、そもそもラウライフ外で使うのに適さない物だったようだ。


「リジーから受け取ったときは、石鹸の包みの端が少し黄ばむ程度だったのですが」


 雪白石鹸は他の石鹸に比べて水分量が多いので乾燥期間が長い。しっかり乾かさずに持ち出したらこうなる、という見本みたいな状態になっていた。


「使ってなかったみたいで、安心したわあ」


 ここで詳しい事情をエルノフィーレ殿下に報告する。


「というわけで、熟成が完全でない、危険な状態の石鹸だったのよお」

「そう、だったのですね」


 ひとまず雪白石鹸による被害者はいなかった。

 ホッとしたのもつかの間のこと。エルノフィーレ殿下はがっかりした様子でいた。


「私が肌荒れでもしていたら、それを理由にリジーを侍女の座から引きずり下ろすこともできたのですが」


 エルノフィーレ殿下は拳を握りしめ、悔しそうにしていた。

 そんな彼女にヴィルがとんでもない提案をする。


「すでに使った、ということにすればいいのでは?」

「被害をねつ造する、ということですか?」


 ヴィルは頷く。ホイップ先生は「その手があったわねえ!」と嬉しそうに手を叩いた。


「たしかに、手に包帯でも巻いておけば、それらしく見えるかもしれませんね」


 なんて言ったら、エルノフィーレ殿下は驚くべき発言をする。


「顔にも巻いておきましょう。ミイラみたいに、ぐるぐる巻きにしたらあの子も少しは反省するでしょうし」

「すばらしい作戦だわあ」


 そんなわけで、さっそく行動に移るようだ。

 エルノフィーレ殿下の手と顔に包帯がぐるぐる巻きにされていく。


「その、リジーのせいで申し訳ありません」

「いいのです。彼女を追い詰めるためだったら、これくらいなんてことありません」


 準備している間、ツィルド伯爵夫婦を酒場に呼びだしているらしい。

 一家を閉じ込め、両親の監視のもと、被害を訴えるようだ。


「――できました」


 メイドの報告を聞いて、エルノフィーレ殿下は手鏡を持って確認する。

 目と鼻、口元以外は包帯でぐるぐる巻きになっていた。

 冷ややかな目で見ていると思いきや、フッと噴きだすように笑う。


「なんておかしいのでしょう。こんな見目でリジーを侍女から引きずり下ろすこともできるなんて、愉快でしかありません」


 まさかこの作戦を面白がってくれるなんて意外だった。

 準備が整ったので、再度酒場に転移する。


 私達がやってくるのを見るなり、リジーは文句をまくし立てる。


「ミシャ、あたくしだけじゃなくって、お父様とお母様まで呼びだして閉じ込めるなんて、どういうつもりなんだい!!」


 リジーはエルノフィーレ殿下がいることに気付いていないようだ。

 ツィルド伯爵夫人は包帯でぐるぐる巻きになった謎の人物に気付き、ギョッとした様子でいる。リジーも今になってハッとなる。


「ミシャ、その女はなんなんだい。そんなに包帯を巻いて――」

「リジー、わたくしです」

「え?」


 ツィルド伯爵夫妻はすぐに察したようで、リジーに下がるように言う。


「お前、頭が高いぞ!」

「そうですよ!」

「え、だって不気味じゃないか」

「そのお方は、エルノフィーレ殿下だ!!」


 ツィルド伯爵の叫びを聞いて、リジーもようやくわかったようだ。


「エルノフィーレ殿下!? どうしてそんな包帯を巻いているんだ?」

「あなたのせいです」

「え?」

「あなたがわたくしに渡してきた石鹸を使ったから、このように肌が火傷を負ったようにただれてしまいました」

「そんな、まさか!」

「わたくしが嘘を言うと思ったのですか? よくご覧なさい」


 そう言ってエルノフィーレ殿下は包帯を外していく。


「えっ、そんな、嘘だろう――!?」


 すべて包帯が外れると、エルノフィーレ殿下の顔は酷く焼けただれたようになっていて……。すべてホイップ先生が魔法で作った幻術である。

 そうとは知らないリジーやツィルド伯爵夫妻には本物のように見えているだろう。


「ひいいいいいい!!」

「あなたがくれた、石鹸が原因なんです!!」


 そう訴えつつ、エルノフィーレ殿下はカビた雪白石鹸をリジーの目の前に差しだす。


「な、こ、こんな石鹸だったなんて、し、知らなかったんだ! 故郷の男が、勝手に用意したんだよ!」


 リジーが送れと言っておいてそれはないだろう。


「すべて、あなたのせいです。責任を取って、侍女の座から下りていただきます!」

「い、いやだ!」


 ここでツィルド伯爵夫妻がリジーのもとへやってきて、強制的に膝を突かせる。


「バカな娘がやったことなんです!」

「どうかお許しを!」

「ひとまず侍女は辞めていただきます。あとの処分はのちほど」


 リジーは最後まで何かわめいていたようだが、ツィルド伯爵夫人から口を塞がれていたので何を言っているのかわからなかった。 

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