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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・四章 調査、調査、そして調査

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夕食を

 今日もヴィルが料理を作ってくれるようだ。

 最近野外料理にはまっているようで、外でいろいろ作ってくれる。

 普段、学校内の誰も寄りつかない場所で料理しているのだとか。

 誰かが目撃したら、びっくりするだろう。どうか誰にも見つかりませんように、と祈っておく。

 ヴィルが持参したのはずっしりと重みのある鋳鉄製の鍋。蓋に炭を置いて焼くと料理の表面にも焼き色をつけることができるらしい。

 そんな鍋を使ってヴィルはチーズたっぷりのグラタンを作ってくれた。

 分厚くカットしたパンにグラタンを載せて食べると、至福の味わいとなる。


「んん~~~~、おいしい!」


 パンもグラタンもホワイトソースも小麦粉だ、なんて気にしてはいけない。

 今は思いっきり味わうばかりだ。

 ヴィルは食事の後片付けもひとりでやってくれるので、とてもいい子だ。

 料理の何が大変って後始末なのである。特に鍋の焦げ付きと戦うのは食後には勘弁して~~~と毎回思ってしまうのだ。

 私は残った火でマシュマロを炙り、板チョコと一緒にビスケットで挟んだスモアを作ってデザートとしていただいた。

 ヴィルが「なんだこれは!」と大げさな反応をしたので、びっくりしてモモンガや元使役妖精達がゾロゾロ集まってくる。皆、甘い匂いが気になっていたようなので、おすそ分けしてあげた。


「熱いから気をつけてね」


 ふーふーしてから食べるんだよ、と言っておく。すると一生懸命息を吹きかけるので、そのかわいさに抱きしめたくなってしまった。


 その後、ヴィルと一緒に国王陛下の療養食を作る。最近は起き上がれるほど元気になったらしく、料理をおかわりすることもあるようだ。

 最近よく眠れないとのことで、睡眠の質を向上させる栄養豊富なカシューナッツと快眠効果が期待できるマッシュルームを使ってポタージュを作ろう。

 カシューナッツは空煎りしたものを細かく砕き、乳鉢で滑らかになるまですり下ろす。

 マッシュルームはすり下ろしてコンソメスープの中で煮込んでいく。

 クリーム状になったカシューナッツとミルクを鍋に入れ、塩をほんのひとつまみ入れて味を調えたらカシューナッツとマッシュルームの快眠ポタージュの完成だ。

 魔法瓶に蜂蜜入りのホットジンジャーを作る。これを飲んでポカポカ体が温まったら、リラックスした状態になってゆっくり眠れるだろう。

 時間になると大フクロウがやってくる。国王陛下のお遣い鳥で、王宮まで行かなくていいように手配してくれたのだ。

 大フクロウは料理が入った籠をかぎ爪でしっかり掴むと、飛んでいってしまった。

 これにて本日の仕事は完了である。

 最後にヴィルと一緒に蜂蜜入りのホットジンジャーを囲んだ。


「は~~~~、染みる」

「ピリッとした風味が癖になりそうだ」

「おいしいですよねえ」


 ここ最近、エルノフィーレ殿下に提出する報告書を作成したり、試験勉強をしたり、国王陛下の療養食を作ったり、とバタバタする毎日だった。こうしてヴィルとゆっくり過ごすのは久しぶりだ。


「リジーのことが解決したら、もっとよかったのですが」

「仕方あるまい」


 それにしてもリジーが雪白石鹸を利用し、商売をしようとしていたなんて。


「また、あの娘と何か言い合いでもしたのか?」

「……はい。リジーがラウライフの名産品である雪白石鹸を転売していたんです」


 毎年、両親はリジーにも雪白石鹸作りを手伝うように言っていた。けれども彼女は聞く耳なんてなくて、伝統的な行事にはこれっぽっちも参加しなかったのだ。

 雪白石鹸に思い入れも何もないのに、我が物顔で商売しているものだから許せない。


「新鮮な雪白石鹸とか言って、勝手に売りさばこうとしていたみたいで」

「新鮮?」

「そう、新鮮……あ!!」


 石鹸が〝新鮮〟だなんてありえない。思わず頭を抱えてしまう。


「ど、どうして気付かなかったの!?」

「ミシャ?」

「大変です! すぐにリジーが売ってしまった雪白石鹸を回収しなければならないんです! たしか、すでに三つ販売したとか言っていて――!」

「落ち着け」


 ヴィルが私の背中を撫でて冷静になるように言ってくれる。


「ミシャ、教えてくれ。どうして回収が必要なんだ?」

「石鹸というのは、必ず熟成の工程が必要なんです」


 石鹸作りにはブクブク剤――地球で言うところの〝苛性ソーダ〟という薬品が使われる。

 ブクブク剤には手強い汚れを落とす効果があるものの、劇薬に分類されるものである。

 完成してすぐに使えばチクチクとした刺激を感じ、酷い肌荒れを誘発してしまう。


「けれども石鹸を熟成させたら、ブクブク剤の性質を低下させることができるんです」


 石鹸によって熟成期間は異なるが、雪白石鹸は最低でも半年置いておかなければならないのだ。


「熟成によってブクブク剤の性質を抜くことを目的にしているのですが、水に溶けやすいので、固める目的もあるんです」


 そういえばリジーがナイフで雪白石鹸を削いでいたが、熟成済みの物であればあのように簡単にカットできるわけがないのだ。


 どうしてすぐに気づけなかったのか。

 なんて嘆いている場合ではない。すぐさま成分を調べたほうがいいだろう。


 ヴィルが鑑定魔法で調べたものの、石鹸ということしか表示されなかった。


「小さすぎるからだろうな」


 より正確な鑑定結果を調べるためには、ある程度の大きさが必要らしい。

 ノアも鑑定魔法が得意だと言っていたが、今の時間から他寮にいくには許可証がいる。

 こうなったらホイップ先生に頼るしかない。


「ホイップ先生のところに、リジーがくれた雪白石鹸のサンプルを持っていってきます」

「私も同行しよう」


 そんなわけで、ヴィルと一緒にホイップ先生の研究室に向かったのだった。

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