思いがけないお茶会
ヴィルとの婚約を発表してからというもの、お茶会のお誘いが大量に届くようになった。
これらの社交は学校に申請したら参加できるらしい。授業がある日も許されているという。
皆、未来のリンデンブルク大公夫人である私と親密な関係を築きたいのだろう。
ただ、今のところ誰とも親しくするつもりはない。
私自身、こういう社交が苦手だというのもあるし、ヴィルとの婚約だって今回の問題が解決されたら解消されるかもしれない。不透明な関係なので、社交界での人付き合いなんて将来を見越してする意味などないだろう。
返事を書く時間があったら勉強したいな、なんて考えていると、手紙の中にあったある差出人からの手紙を見てギョッとする。
「――バネッサ・フォン・ツィルド!?」
それはツィルド伯爵夫人からの手紙だった。
これまで存在感がなかったツィルド伯爵夫人からお茶会の招待が届くなんて。
開封してみたら、会場がツィルド伯爵が経営する会員制の喫茶店になっていた。
ヴィルでさえ潜入が難しいお店でお茶会が開かれるなんて、参加するしかないだろう。
その前にヴィルに相談だ。
タイミングよくヴィルがガーデン・プラントにやってきた。夕食を作ったようでふるまってくれる。
「今日のは自信作だ」
「わあ、たくさん作ったのですね」
今が旬、牡蠣のクリームパイに白パン、野菜のコンソメスープ、薬草サラダ、ミートボールのオーブン焼きとごちそうを作ってくれたようだ。
「前にミシャが作っておいしかった薬草バターも作ってみた」
「いい香りです!」
ヴィルが作る料理はどれもおいしい。レストランででても遜色ないクオリティの料理である。さすが、私の専属料理人に名乗りでるくらいだ。
「ミシャ、今日は午後からいなかったのか?」
「あ――はい」
なんでもお昼休みに教室を覗いたようだが、ちょうど通りかかったエアから「ミシャはいないよ」と言われてしまったらしい。その後、休み時間もやってきたようだが、私の姿はなかったという。ノアがやってきて、ホイップ先生に呼びだされたと説明してくれたらしい。
「実はホイップ先生からのお願いで、リジーに会いにいったんです」
「断ればいいものを」
「一瞬、断ろうかと思ったのですが、リジーはクラスメイトですし、私は監督生なので」
「監督生の鑑だな」
「いえいえ。当然のことをしたまでです」
リジーとのやりとりをかいつまんで話すと、ヴィルは眉間に皺を寄せて不快だとばかりの表情を浮かべていた。
「まあ、退学処分にできたのだから、たいそうなお手柄だろう」
「ジェムの映像があったので、それが大きかったのかもしれません」
部屋の隅で気配を消していたジェムだったが、私が褒めると淡く光って誇らしげな様子でいた。
「その帰りに――」
ジルヴィードに会ったことについて報告しようと思ったが、喉からでる寸前で呑み込む。
彼が私に求婚してきたことを言ったら、ヴィルが怒りそうだな、と思ったからだ。
ただ、すでに遅かったようだ。
「リジー・フォン・ツィルドに会ったあと、何かあったのか?」
「いや~~~、その~~~、まあ、はい」
彼に隠し事などできるわけがないので、正直に打ち明ける。
「というわけで、サーベルト大公子息はリジーに手を焼いているらしく、私と婚約すればよかったなどと言いまして」
「あの男、婚約者がいるミシャになんてことを言うんだ! いや、婚約者がいなくても、ミシャに婚約を申し込むなんぞ許さない!」
思っていた数倍、ヴィルは怒った。
こうなるとわかっていたので、言いたくなかったのだ。
「ミシャ、次に奴と遭遇したときは私を呼べ」
そう言って、ヴィルは新しく召喚札を手渡してきた。
「いかなる状況でもいい。かならず私を呼ぶように」
「いや、しかし、入浴中とかお着替え中とかに呼びだされたら困るのでは?」
「それが理由でミシャを助けられなかったら一生の悔いとなる。遠慮なく呼んでほしい」
「は、はあ」
そこまで言うのであれば、遠慮なく使わせていただこう。




