リジーの処分
ホイップ先生のところに報告にいったつもりだったが、なぜか校長先生に直接リジーについての話をすることとなった。
勘弁してほしい、と思ったもののホイップ先生が付き添ってくれたので、なんとか奮い立たせる。
真実しか話さないつもりだが、あとあとリジーからあれこれ言われそうだ。
まあ、いい。私が見聞きしたことを言うまでだ。
はてさて、どこからどうやって説明しようか。なんて迷っていたら、ジェムが行動を起こす。リジーとの会話を映像として見せてくれたのだ。
校長先生とホイップ先生は驚いた表情でリジーの話を映像を通して聞いていた。
退学届をぐちゃぐちゃに丸めて暖炉に捨てた件だけでもびっくりしていたのに、さらに夜な夜な酒を飲んで遊び歩いて朝帰りしていたことや、侍女としての務めを果たしていないこと、気が向いたら登校するという主張、魔法学校の生徒であることを自慢し回っていたことなど、ありえない発言の数々に言葉を失っていた。
映像が終わったあと、校長先生は深く長いため息を吐く。
ホイップ先生はかつて受け持っていた生徒について思い出してしまったようだ。
「何十年前だったかしらあ? 飲酒と無断欠席で退学処分になった生徒がいたけれど、彼以来の問題児だわ~」
私と同じ雪属性の持ち主だったらしい。
「創立以来の雪属性だったから、合格したみたいなんだけれど、まあ、素行が悪くってねえ」
雪属性で退学処分を食らった生徒がいると聞いて、ある人物が思い浮かんだ。
「あの、もしかしてその問題児ってガイ・フォン・リチュオルという名前ではありませんでした?」
「そう! ガイ・フォン・リチュオル――あら?」
「私の叔父です」
「そ、そうだったわねえ」
面談のときに話したような気がしたが、ホイップ先生はすっかり失念していたようだ。
さらにガイ・フォン・リチュオルがリジーの父親でもあるというと、校長先生とホイップ先生は気まずげな表情を浮かべる。
「血は争えない、というわけですね」
私の言葉にふたりは曖昧に微笑むことしかしなかった。
まあここで頷いてしまえば、同族である私を非難することにも繋がるからだろう。
校長先生はごほん! と咳払いし、決定を口にした。
「リジー・フォン・ツィルドに関しては、退学処分としよう」
教師陣と話し合う余地などなく、リジーは強制的に退学となるらしい。
内心、ざまあみろ! と思った。
「ミシャ・フォン・リチュオル、いわれのない暴言を受けて、大変だっただろう。よく引き受けてくれたね」
「いえ、私は監督生ですので」
その言葉を聞いて校長先生は笑みを浮かべ頷いてくれた。
以前、監督生に相応しくないと校長先生に訴えにやってきたので、今現在、しっかり務めを果たそうとする私の姿に嬉しくなったのだろう。
「ひとまずリジー・フォン・ツィルドの退学処分について、エルノフィーレ殿下に伝えておいてくれるかい?」
「はい、もちろんです」
リジーを侍女から引きずり落とす計画について、まだ何もできていなかったが、退学処分の話だけでも安心するに違いない。
そんなわけで放課後、アリーセやノアを誘ってエルノフィーレ殿下とお茶会を開くこととなった。
場所は放課後の教室。ホイップ先生に使用する許可を取っておいたのだ。
お茶はガーデン・プラントで採取した薬草茶、お菓子は購買部で買った魔菓子をいただく。
髪色が変わるクッキーを食べると、エルノフィーレ殿下の髪色が虹色に染まった。
かなりレアな色合いのようで、皆で盛り上がる。
ノアは澄んだ空色、アリーセは真っ白に染まった。
私はカラスみたいに真っ黒な髪となる。前世で日本人だったことを思い出してしまった。
それから声色が変わる七色宝石飴や、角や猫耳が生えたように見える幻術綿あめなどなど、魔菓子をこれでもかと味わった。
アリーセやノア、エルノフィーレ殿下が魔菓子を口にするのは初めてだという。
これまで学校から支給されたことはあっても、食べようと思わなかったらしい。
「しっかりおいしいのが驚きですわ」
「本当に!」
エルノフィーレ殿下もこくこくと頷く。
私が淹れた薬草茶も好評で、よかったと一安心。
ひとしきり楽しんだあと、本題へと移る。
「実は今日、リジーのところにいってきて――」
彼女の呆れた発言については割愛し、退学届を暖炉に投げ捨てた件だけ打ち明けた。
「学校側はリジーの勝手な行為を許さないようで、退学処分となるそう」
その話を聞いたエルノフィーレ殿下は、ホッと胸をなで下ろす仕草をする。
それだけでなく、私の手を握って感謝してくれた。
「ミシャ、ありがとうございます」
「いえいえ。私は彼女のもとにいっただけですので」
「そんなことありません」
エルノフィーレ殿下側もリジーと接触を取ろうとしていたようだが、不在で面会できなかったという。
「彼女と学校で顔を合わせたとき、感情が爆発しないか心配だったんです。これで安心して魔法学校に通えます」
その言葉を聞いて、私も安堵したのだった。




