レヴィアタン侯爵邸へ
リンデンブルグ大公との食事会より先に、私の保護者であるレヴィアタン侯爵夫妻と面会することとなった。
というのも、エルノフィーレ殿下の問題に介入することになったので、何かあったときに保護者が把握していなかったら迷惑をかけてしまうから。
授業が終わったあと、陛下の食事を作りにいった帰りにヴィルと一緒にレヴィアタン侯爵邸にお邪魔させていただく。
ひとまず訪問を知らせる手紙には、ヴィルと婚約したことを報告させてほしい、とだけ書いた。エルノフィーレ殿下の問題については、誰かに知られてしまったら大変なので、手紙には書かないほうがいい、とヴィルが助言してくれたのだ。
そんなこんなで、冬のホリデーぶりにレヴィアタン侯爵邸に向かった。
不気味なお庭には新作なのか、口から血を流すスノーマンの像みたいなものが立っている。シーズンによって飾るものが変わっているのか。ご丁寧に夜もしっかり見えるように、魔石灯か何かでしっかりライトアップされているのだ。
ヴィルはそれに気づくと相変わらず趣味が悪い、とはっきり口にしていた。
遠慮のない物言いをするのも珍しい。
「そういえばヴィル先輩ってレヴィアタン侯爵夫婦とかなり親しい関係なのですね」
「ああ。陛下の紹介で懇意にしている」
なんでもレヴィアタン侯爵は国王陛下の懐刀的な存在らしい。ふたりは幼少期からの付き合いだったが、裏でこっそりと親しい関係が続いたようだ。
そんなレヴィアタン侯爵とヴィルは手を組んで国王陛下の命令に応じることがあるという。
「レヴィアタン侯爵邸でミシャと初めて会ったときも、陛下の任務について話をしていた」
「大事なときにきてしまったのですね」
「いいや、気にするな。急に訪問したのは私のほうだったから」
内心ヴィルは焦っていたようで、いくらでも誤魔化しようはあるのに、慌てて二階から飛び下りていったらしい。
「あのときは姿が消えたので、びっくりしました」
「それはすまなかった」
きれいに着地したようで、怪我などはなかったという。
「まさかこうして婚約の報告をしにいく日が訪れるとは、夢にも思っていなかった」
「私もです」
縁というものは本当に不思議なものだ。魔法学校の中庭でリスに囲まれながら横たわっていた美貌の青年と婚約を結ぶことになる未来なんて、誰が想像できたか。
「ミシャとの出会いは私にとって人生最大の思いがけない幸運だった。神に感謝しなければならない」
「そこまで言いますか?」
「足りないくらいだな」
冗談か本気かわからないような会話をしているうちに、到着したようだ。
お迎えは使用人総出だった。ヴィルがいるからだろうか?
案内された先は食堂で、そこではレヴィアタン侯爵夫妻が笑顔で迎えてくれた。
「ふたりとも、よくきてくれた」
「どうぞおかけになって」
これまでにないくらいの歓喜っぷりである。婚約報告のほうがおまけだなんて、言えるわけもなく……。
食べきれないくらいのごちそうが振る舞われ、デザートをいただいたあと、紅茶を囲みながら婚約報告をヴィルがしてくれた。
「ミシャからの手紙にもあったように、婚約することになって――」
「おめでとう! そうであれば喜ばしい、とずっと思っていた」
「ええ、ええ。本当にお似合いで」
ヴィルがあまりにも結婚に興味を示さないので、唯一仲がいいように見える私にすべての期待がかかっていたのかもしれない。
「陛下まで祝福されているとは」
私達が報告するよりも先に、ヴィルとの婚約は国王陛下から聞かされていたようだ。
ヴィルは報告を手短にまとめ、本題へと移った。
「もう一点、報告しなければならないことがあって」
そうヴィルが言うのと同時に、私はうっかり食べ過ぎてしまった、とお腹をさする。その瞬間にレヴィアタン侯爵夫妻の顔色が変わった。
「まさか、ミシャ嬢に新しい命が宿っているというのか!?」
「あらあら、まあまあ!」
ヴィルの表情もぴしっと凍り付く。
すぐさま私は「違います! お腹をさすっていたのは単なる食べ過ぎです!」と訴える。
安堵の表情を見せるレヴィアタン侯爵夫婦に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。




