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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第二章 人間関係のあれこれ

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国の違い

 エルノフィーレ殿下は次の授業にはでるという。このまま欠席しても問題ないような事件が起きたというのに、真面目なお方だ。


「せっかく魔法学校に入学できたのですから、きちんと勉強しませんと」


 リジーに百万回は聞かせたい言葉である。


「ルームーン国には、女性が魔法を学べる学校などありませんので」

「そ、そうなのですか!?」

「ええ。この魔法学校へ通えるということも、ソレーユ国にやってきた理由のひとつでした」


 なんでも花嫁学校すらなく、結婚前の女性は修道院に一時的に身を置き、奉仕活動をすることしか許されていなかったという。


「ソレーユ国は女性にとって自由なんです。暮らしていたらあまり気づくこともないでしょうけれど」


 たしかに言われてみればソレーユ国は女性も爵位を継げるし、魔法学校の男女比は平等だ。女だから、と諦めるようなこともこれまでなかったような気がする。


「この国で結婚したほうが、わたくしは楽に生きられたでしょうね……」


 エルノフィーレ殿下は遠い目で話す。きっとこれまでいろいろあったに違いない。

 私なんぞがかけられる言葉などあるはずもなく、ただ話に耳を傾けることしかできなかった。


 と、しんみりしている場合ではなかった。次の授業まで十五分しかない。


「ひとまずお化粧直しをして――誰か呼びましょうか?」


 とは言ったものの、誰を呼べばいいのかわからなかったが。

 エルノフィーレ殿下は普段、王城から魔法学校に通っているらしい。傍付きのメイドもいるようだが、皆部屋に置いてきているという。


「いいえ、必要ありません。化粧直しでしたら、魔法でどうにかできますので」


 そう言って、エルノフィーレ殿下は魔法で化粧直しをするようだ。

 魔法を使う媒体は耳飾りらしい。指先でそっと触れたあと、呪文を唱える。


「――美しくよそおえ、扮装せよメイクアップ


 顔周りに魔法陣が浮かび上がり、崩れていた化粧が一瞬で美しく蘇る。


「上手く化粧は整っていますか?」

「はい! すばらしい魔法です!」

「よかった」


 いつもはメイドに化粧を命じているようで、この魔法を使うのは久しぶりだったようだ。

 ぜひとも習いたい、と思ってしまう。

 普段の私は若さに甘え、リップくらいしか塗っていない。化粧をするのは夜会のときくらいなのだ。


「エルノフィーレ殿下、髪型はどうなさるのですか?」

「髪――ああ、いつの間にか崩れていたのですね」


 エルノフィーレ殿下は髪に触れ、がっかりした様子でいる。


「髪結いの魔法は使えなくって……」


 ここでまさかの要望を受けてしまう。


「あなたが結ってくれますか?」

「私がですか?」

「ええ。できる範囲で構いませんので」


 王女殿下の美しさが映えるような髪結いなど私にはできない。

 長い髪はいつもハーフアップにしてまとめているだけだ。

 私よりもアリーセのほうが上手いだろう。頼んだらやってくれるはず、と提案したのだが、私でいいとエルノフィーレ殿下は言ってくださる。


「乱れていなければ、どんな髪型でもいいです」

「えー、はい、でしたら私が今している髪型でもいいでしょうか?」

「わたくしとお揃いでいいのですか?」

「光栄でしかないです」

「でしたら、お願いします」


 そんなわけでエルノフィーレ殿下の御髪を梳り、ハーフアップにした。

 エルノフィーレ殿下の髪は猫の毛みたいにやわらかくって、極上の毛並みだった。

 いったいどんなお手入れをしているのか、気になってしまう。

 髪結いが完成したので、鏡で確認していただいた。


「こちらでよろしいでしょうか?」

「ええ、ありがとうございます」


 上手だというお褒めの言葉までいただいた。


「あまり髪を下ろしたことがないので、不思議な気分です」

「下ろした髪もお似合いですよ」


 ルームーン国の女性は基本的にまとめ髪のようだが、ソレーユ国は未婚女性はおろし髪なのだ。

 エルノフィーレ殿下は知っていたようだが、なんとなく国の決まりを破ってはいけないと思い、今日までおろし髪をしていなかったらしい。


「なんだか若返ったような気がします」


 若返ったというか、優しい印象に見えるかもしれない。

 どちらも似合っていることに変わりはないが。

 お気に召していただけてよかった、なんて思っていたら、エルノフィーレ殿下が思いがけないことを言ってくれる。 

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