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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第二章 人間関係のあれこれ

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サーベルト大公の目的

「ミシャ嬢、彼について聞かせてくれるかな?」

「それは――」


 私が喋らなくてもヴィルの情報なんて調べたらでてくる。突っぱねることもできるが、サーベルト大公が姪の子を探して何をさせるつもりなのか気になるのだ。

 ギブアンドテイクだ、そう思って情報をちらつかせてみる。


「言ってもいいですけれど、サーベルト大公が姪の子どもを探す目的はなんなのですか?」

「あー、なんだろう。実は知らないんだ」


 嘘を言っているように見えないが、演技が上手い可能性も捨てきれない。


「父は俺のこういう適当で小さな物事を気にしない性格が気に入って、雑用係に命じているんだと思う」


 その理由は説得力がある。彼はなんというか、他の貴族達と違って富や権力に執着するタイプに見えないから。

 実家の支援があるなかで、のんびり暮らせたらそれ以上何も望まない。そんなふうに考えているように思えてならなかった。


「よくわからないけれど、父は従姉――キャロラインのことを特別目にかけていたようだから、子どもを餌におびき寄せるつもりなのかもしれないね」

「おびき寄せる?」

「そう。キャロラインは幼少期から王族にでも嫁がせるつもりなんじゃないか、ってくらい厳しい教育を父に叩き込まれていたようなんだ。実の子である俺よりも、熱心だったんだよ」


 なんでもジルヴィードに姉妹はおらず、政治の駒として使えるような女性がいなかったという。


「もしかして王妃殿下ではなく、従姉をソレーユ国の国王陛下に嫁がせるつもりだったのでしょうか?」

「ああ、なるほど! そうかもしれないね」


 サーベルト大公の姪キャロラインは王妃の侍女として共に国を渡ったようだが、数年後に子を産んだようだ。


「それがソレーユの大貴族だってわけ」


 どくん! と胸が大きく脈打つ。

 ヴィルから母親についての話を一度も聞いたことがなかった。もしかしたらキャロラインが母親である可能性もある。


「その後、キャロラインから手紙が届いて、子どもが病弱で手がかかるから、今までのように手紙を頻繁に送るのは難しいって言われたんだ」


 それから数年、手紙は月に一度から三ヶ月、半年、一年と少なくなっていき、ついには途切れてしまったようだ。


「まったく届かなくなった十六年か十七年前だったのかな。以降、ぱったり音信不通になって、父側から所在が掴めなくなったらしい」


 おそらくその後、サーベルト大公は捜索したのだろうが、異国の地へ探偵を派遣し、探すというのは困難を極めたのだろう。


「生きているかもわからない状況なんだ」

「そう、だったのですね」


 せめて子どもだけでも引き取って、いい暮らしをさせたいとか考えているのだろうか?

 その子どもがヴィルである可能性が高いわけだ。


「もうこれくらいでいい? あとは本当に何も知らないんだ」

「あ、はい」


 今度はこっちが情報を開示する番である。

 ヴィルのことを勝手に話すなんて裏切り者みたいだ。けれどもいろいろ聞きだした以上、話さないといけないだろう。

 ヴィル、ごめんなさい。そう思った瞬間、腰に何かがぐるぐる巻き付き、ぐいっと後ろに引かれた。


「きゃあ!」


 落ちる!! と思ったものの、着地したのはぽよんとやわらかいジェムの上。


「え!?」


 いつの間にかジェムに騎乗している状態になる。

 なんか、こういうスライムの上に乗った騎士のキャラクターがいたような? などと前世の記憶に思いをはせていたら、ジェムが動き始めた。


「え、何、きゃあ!!!!」


 ジェムは足下に無数の触手を生えさせ、すばやい動きで走り始めた。


「ちょっ、うわっ、なんでええええええええ!?」


 シートベルトみたいに腰に触手が巻き付いているので落ちはしないが、ジェットコースターに乗っているような感覚になる。恐ろしいにもほどがあった。

 だんだんとスピードが上がっていく。舌を噛まないよう、奥歯をぐっと噛みしめた。

 猛烈な速度で王城の庭園を駆け抜けていく。すでに東屋は遠く離れていて、ジルヴィードがあとを追いかけてくる気配もない。というか、人間の足では追いつけないだろうが。

 もしかしたらジェムは私が困っていたので、助けてくれたのかもしれない。

 ジェムは突然立ち止まり、ぐっと身を縮める。


「ま、待って!! まさか!?」


 嫌な予感しかしなかったので、喋らずに衝撃に備える。

 ジェムは大きく跳ね上がり、二階のバルコニーに着地したのだ。


「はあ、はあ、はあ……!」


 ジェムのおかげで逃げきったのだが――。


「あ、グラタンと紅茶の代金を払っていないわ」


 無銭飲食をしてきてしまったことに気づいた。

 

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