グラタンを囲む会
気まずい時間を過ごす前に、三種のキノコグラタンと紅茶を別のメイドが運んできてくれた。
紅茶はポットで届いたので、ジルヴィードの分も淹れてもらうようにお願いする。
「うわあ、おいしそうだね」
「少しいりますか?」
「いいや、いいよ」
ひとりで食べるのは気まずいので、分けさせてほしかったのだが……。まあいい。遠慮なくいただこう。
マカロニ入りのグラタンは家ではなかなか作れない。というのも、前世のように材料を混ぜて乾燥マカロニを入れて煮込むだけ、みたいなインスタントが売っていないから。
さらに乾燥マカロニもなかなか売っておらず、小麦粉から手作りしなければならないのだ。
普通のご家庭では手作りのマカロニが入ったグラタンが食卓に並ぶのだが、私はいかんせんインスタントの手軽さを知っている。マカロニを手作りする労力を味わいたくないので、なかなか作る気になれないのだ。
同様にホワイトソースも面倒だが、マカロニよりはマシだ。そのため、マカロニなしのホワイトソースに具材を絡め、チーズをたっぷり載せて作るなんちゃってグラタンであれば何度も作っているのだ。
グラタンをフォークで掬うと、マカロニが顔を覗かせる。チーズが伸びて、湯気がふわっとあがった。こういう肌寒い場所でのグラタンはたまらない。
人目も気にせずにぱくりと頬張った。
「熱っ……!」
はふはふと口の中で冷ましつつ、グラタンを噛みしめる。ぷりっぷりの弾力があるマカロニは手作りならではだろう。
キノコの旨味がホワイトソースに溶け込んでいて、キノコ自体もコリコリという食感がすばらしい。信じられないくらいおいしかった。
至高のグラタンだ、と今この瞬間に決めつける。
ふと、ジルヴィードがじっと見つめていることに気づく。目が合うと、感心したように言われた。
「君、おいしそうに食べるね。なんだか俺も食べたくなったよ」
今更わけてくれないか、などと言ったものの、一口食べてしまったものはあげられない。それでもいいからと言ったが、新たに注文していただいた。
私が食べ終えた頃、ジルヴィードの分のグラタンがやってきた。
待ちに待ったジルヴィードは、あつあつのグラタンを頬張る。
「熱っ、でもおいしい!」
顔を赤くしながら、実においしそうにグラタンを頬張っている。
その様子を見ていると、たしかに食べたくなる料理だな、と思ってしまった。
食事を終えたあとも、ジルヴィードはなぜかこの場に残った。
「いやあ、おいしかった! このグラタンを食べにこの国へやってくるのもいいかも」
「いえ、きっとそちらのお国にもおいしいグラタンはありますよ」
「そうかな? だったらうちの国にきたとき、一緒に探してくれるかい?」
「それはちょっとごめんなさい。お断りします」
私には婚約者がいる身ですので、と付け加えた。
「婚約者か~~」
「いらっしゃらないのですか?」
「いないよ。だって無職だし、継ぐべき爵位もないし!」
仕事をしていないことを堂々と言ってのける。なんでも親の金で日々暮らしているらしい。
「あー、でも、何もしなくていい、ってわけではないんだよ」
「何かされているのですか?」
「父上の雑用係なんだ」
今回、頼まれた仕事を達成するためにやってきたという。
「行方不明の従姉の子どもを、探してこなければならないんだ」
「従姉のお子さん……従甥、というわけですか?」
「そうそう。なんでも俺と同じ年頃で、病弱なはずって聞いているんだ」
ジルヴィードと同じ年で病弱、そう聞いて思い浮かべたのは――。
「君と一緒にいた男性、驚くくらい僕に似ていたよね」
急にジルヴィードの目つきが鋭くなる。
どくん、と胸が脈打つのと同時に気づいた。彼は私にヴィルのことについて聞くために偶然を装って東屋にいる私に近づいたのだ、と。




