リジーのやらかし
平和を取り戻した教室で、私はアリーセとノアに感謝する。
「ふたりともありがとう! 助かったわ」
「ノアが先生を呼びにいこうって、わたくしを誘ってくれましたの」
「僕達が直接リジーを咎めたら、問題になると思ってね」
的確な判断のおかげで、私は助かったというわけだ。
「今度、また変なふうにミシャに絡んだら、すぐにホイップ先生を呼びますので」
「僕達に任せてよ」
なんていい友達を持ったのか。感激のあまり涙がでそうになる。
改めてふたりに感謝したのだった。
それにしても、リジーの暴走が酷い。どうやって止めたらいいものなのか、頭が痛くなる。
はあ、とため息をついていたらエアがやってきた。
「おはよう、ミシャ」
「エア、おはよう」
「どうしたんだ? なんだか朝から疲れている様子だったけれど」
「リジーが朝から私に絡んできたの。もちろん、事実無根の件で」
「大変だったんだな。何かあったのか?」
リジーとあったあれこれを二日分説明すると、エアは「気の毒だったな」と言って肩をぽんぽん叩いてくれた。
「例の転入生の侍女だから、いろいろ言いにくいよなあ」
「そうなのよ。リジーの訴えを信じる人がもしもでてきたら、それこそ一大事だから」
リジーの気が収まるまで言わせておいたほうが、何事もなく終わるのだ。
「そうなると、ミシャが心配だな。あまりにもガミガミ言われたら、心労が溜まるんじゃないのか?」
「平気よ。幼い頃からずっとああだったから、右耳から入ってきた言葉は反芻することなく、左耳から垂れ流しているの。リジーの言葉なんて、深く耳を傾ける価値のないものばかりだから」
「さすが、達観している」
「任せて」
私よりも傍にいたアリーセやノアのほうが精神的なダメージが多そうだ。
今日みたいに先生を呼ぶような事態になるのも申し訳ない。
「でもまあ、自分達で解決するよりは、先生の介入があったほうがいい気がする」
「それもそうね」
「俺も何かあったら、即座に先生を呼びにいくから」
エアはホイップ先生だけでなく、その辺にいる教師でも声をかけることができるという。
「屈強なアイン先生とかに詰め寄られたら、さすがにお手上げだろう」
「そうだといいけれど」
〝レディ・バイオレット〟でも、リジーは体が大きい用心棒を恐れず、あれこれ文句を言っていた。きっとアイン先生を前にしても態度は変わらないだろう。
リジーといるときは録画とか録音とかできたらいいのに、と思う。
前世ではスマホで簡単にできるものが、ここにはないのだ。
なんて考えていたら、登校早々壁に張り付いていたジェムが輝きを放つ。
「眩しっ、え、何?」
「ジェム、どうしたんだ?」
光が収まると、ジェムの表面に映像と音声が映し出される。
『ねえ、これ、着たいんだけれど!』
「試着ができますのは、顧客のお客様のみとなっております」
「なんだって!? このあたくしが誰かわかっているの? ツィルド伯爵の娘、リジーの名を知らないとは言わせないよ!」
ジェムが鮮明な映像と大音量で流したものは、昨日、〝レディ・バイオレット〟でのリジーの様子だった。
クラスメイト達も集まって、興味津々とばかりに眺めている。
私が証言したとおりの映像に、クラスメイト達は呆れた様子だった。
「やっぱりあの子の言っていることが嘘で、リチュオルが正しかったんだ」
「わかっていたけれど」
他の生徒がやってきて、映像と音声を不思議がっていた。すると魔法に詳しいクラスメイトが記録用の魔法だと説明する。
どうやらこの世界にも、録画や録音のような魔法が存在するようだ。
ここでホームルームの開始を知らせる鐘が鳴り、ホイップ先生がやってきた。
「はいはいみんな、席についてえ~」
ちらりとジェムのほうを見たらどや顔でいた。
まさか録音と録画能力があったなんて。ジェムの可能性は無限大だ、と思ってしまった。
放課後はアリーセとノア、エアをガーデン・プラントに招き、お茶会を開く。
ビスケットで土台を作るアップルタルトをみんなで調理し、その辺で摘んだ薬草でお茶を淹れる。
みんなで協力して作ったからか、とてもおいしく仕上がった。
話題が途切れたタイミングで、私とヴィルの婚約について、アリーセとエアにも報告した。アリーセのほうは驚いた様子を見せることなく、いずれそうなるのではないか、と想像していたらしい。
一方、エアは「ええ!?」と大きな声をあげ、びっくりしているようだった。
何はともあれ、二人とも祝福してくれたのでよかった。




