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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第一章 衝撃の転校生

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ドレス選び

 呆然とする私達をおいてスタスタ進んでいた店員さんだったが、振り返ってにっこり微笑む。


「申し遅れましたわ。わたくし、ミュリル・フォン・バイオレットと申します」

「え、〝バイオレット〟って……?」

「ええ、私がこのお店〝レディ・バイオレット〟の店主なんです」


 胸に手を当てて優雅な様子で頭を下げる。

 まさかこの若い女性が店主バイオレットだったなんて。


 というかどうして彼女がここにいるのか。エルノフィーレ殿下という貴賓がいるのだから、てっきりそちらにいるものだと思っていたのに。

 ノアも同じような疑問を抱いたようで、レディ・バイオレットに質問を投げかける。


「あの、どうしてエルノフィーレ殿下のところにいかなかったの?」

「それについては、ここが王室御用達店だからです」

「陛下のお客様であるミシャさんのほうが、エルノフィーレ殿下よりも優先すべきお客様ってこと?」


 レディ・バイオレットはにっこり微笑む。つまりはそういうことなのだろう。

 長い廊下を進んでいき、瀟洒しょうしゃな客間のようなところに案内される。これが特別なお客様のみを案内する個室らしい。

 おいしそうな焼き菓子に、香り高い紅茶が運ばれてくる。

 まずはどんなドレスが好きなのか、言葉を交わすようだ。

 結婚式場のドレス選びみたいなカウンセリングをしてくれるのだろう。


「ちなみにエルノフィーレ殿下のほうは、双子の妹が接客しておりますの。副店長ですが、よい仕事をしますので、エルノフィーレ殿下もきっとお気に召していただけているはずです」


 ちなみに一卵性の双子でそっくりらしい。


「なるほど。だったら双子の妹がバイオレットと名乗ったら、客が勝手に店主と勘違いする仕組みか」


 これに関しても、レディ・バイオレットはにっこり笑うだけだった。これはもう、ノアの推測を認めているようなものだろう。

 そんな手法を採っているとは。エルノフィーレ殿下も自分をないがしろにされた! と思わないいい作戦というわけだ。


「もともとこのお店は妹と一緒に作ったもので、妹は責任を負いたくないからと言って、姉である私に店長になるよう言ってきたんです」


 なんでも妹さんのほうが接客が上手いらしい。レディ・バイオレットは主にデザインを担当しているようだ。


「きっと今頃、エルノフィーレ殿下は気持ちよくドレスを選んでいること間違いなしです」

「それを聞いて安心しました」

「先ほどの女性も、妹ならばもっと上手くあしらえたかと思うのですが」

「いえいえ、あれは誰の手にも負えない人ですよ」


 今後リジーは出禁となったので、二度と入店は叶わないだろう。

 ここで話題はドレスに移る。


「どんな色が好きかお聞きしても?」

「好きな色……あまり意識したことがなかったのですが」

「自分に似合う色でもいいですよ」


 これまで服は暖かければよかったし、着心地がよければなおいい、としか思っていなかった。ドレスも安くて見栄えがいい素材とか、自分のサイズに合っているものとか、気にする基準がずれていたような気がする。

 素直に打ち明けると、レディ・バイオレットから苦笑された。

 鏡を見ながら服を当てて選んだ記憶すらない。

 どうしようか、なんて思っていたら、アリーセが意見してくれた。


「ミシャは緑系の服が似合うと思いますの」

「どれどれ」


 ノアが緑色のハンカチを持っていたようで、私の肩にかけて当ててくれる。

 レディ・バイオレットは深く頷き、「本当にお似合いです」と言ってくれた。


「だったらお兄様の瞳の色に近い、エメラルドグリーンのドレスはどう?」

「すばらしいアイデアです!」


 その後、レディ・バイオレットは百科事典のような分厚いデザイン帳をテーブルに広げ、いろいろ見せてくれた。


 他にも好きなリボンの素材や形、レースのパターン、スカートの膨らみなどなど、細部についても聞かれた。

 まるでオーダーメイドをするかのような質問の多さだが、好みに近いドレスを見繕ってくれるらしい。場合によってはリボンやレースなどを追加した状態で用意するようだ。


「では完成しましたら学校の寮に送りますので」

「ありがとうございます」


 これで終わりかと思いきや、レディ・バイオレットは今度はアリーセのドレスを選びましょう、と言い始める。


「いえ、そのわたくしはここのドレスをお迎えする権利を持っておりませんの」

「もちろん存じております。わたくしからの贈り物です」


 もちろんノアも、と言ってくれた。


「〝レディ・バイオレット〟のドレスなんて、受け取る理由がないんだけれど」

「それはあなたがたに好意を抱いたからでもあるのですが、何より先行投資させていただこうと思いまして」

「先行投資って、僕達の将来に期待したいってこと?」

「はい! ここにいらっしゃるみなさんは、この国の未来を背負うようなレディになると思うんです」


 その理由を聞いてノアも納得したらしい。

 それからアリーセとノアのドレス選びを始める。自分のドレスは好きな色とかデザインとか何を選んでいいのやら、という感じだった。それなのにノアやアリーセのドレスを選ぶのはとても楽しい。

 あっという間の時間を過ごしたのだった。

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