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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第一章 衝撃の転校生

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手の付けようのない女

「ねえ、ミシャ。その人知ってる?」

「……いいえ、わからないわ」

「あたくしよりも先に通っているのに、あんなにいい男を知らないなんて、あんたの目は節穴?」

「そう、かもしれないわね」


 元婚約者とリジーの不貞にも気づけなかったのだ。節穴で間違いないだろう。


 視界の端でノアが怒りの形相でいたのに気づく。きっとノアはリジーの狙っている男性がヴィルだと勘づいたのだ。なんとか踏みとどまってくれているようだが、限界に違いない。早いところ撤退したほうがよさそう。

 また後日、日を改めたほうがいいだろう。学校側にもエルノフィーレ殿下と鉢合わせになって選べなかった、と言えばいい。いろいろ察してくれることを期待しようではないか。


 リジーは真っ赤なドレスを指差して、店員さんに要望を伝える。


「ねえ、これ、着たいんだけれど!」


 店員さんは眉尻を下げ、申し訳なさそうに言った。


「試着ができますのは、顧客のお客様のみとなっております」

「なんだって!? このあたくしが誰かわかっているの? ツィルド伯爵の娘、リジーの名を知らないとは言わせないよ!」


 店員さんはきっと柔和な表情の裏で、「知るわけあるか!」と思っているに違いない。


「エルノフィーレ殿下の侍女であるあたくしにそんな態度を取って、許されると思っているの!?」


 まさに、虎の威を借る狐である。ことわざの見本にしたいくらいの発言だった。

 ここは空気と化したかったのだが、だんだんと店員さんが気の毒になってくる。リジーの愚かな仲間だと思われたくないので、物申してみた。


「リジー、ここは普段、王家の方々が利用しているような歴史あるお店なの。一介の貴族が気軽に試着できるようなところではないのよ」


 恥を知れ、恥を。なんて言いたい気持ちをぐっと堪えて優しく諭す。


「一介の貴族? あたくしは将来、大金持ちのいい男と結婚して、一目いちもくおかれるような女になるんだ! いつか王様よりも偉くなるかもしれない!」

「いやいや、ないないない」

「なんだって!?」

「いいえ、なんでもないわ」


 どうしてここまで自己肯定感が高いのだろうか。私にも少し分けてほしい。


「ミシャ、あんたのほうこそ、この店に相応しくない! 早くでていってちょうだい!」

「いいえ、それはなりません。彼女は大事なお客様ですから」


 あろうことか、店員さんがリジーに物申してくれた。

 店員さんを助けるためにリジーに意見したのに、まさか逆の立場になるなんて。


「な、生意気な女! ツィルド伯爵に報告してやるからな!」


 ここで店員さんがぱんぱんと手を叩くと、お店の奥から屈強な男達がぞろぞろやってくる。


「な、なんなんだ、あんたらは!」

「出入り禁止だ」

「はあ!? 出禁だって!?」


 リジーは拳を振り上げて刃向かおうとしたものの、あっさりと躱される。

 思いのほかすばしっこいリジーは店内をちょろちょろと走り回って、捕まえようとする手から逃れていた。


「ちょっと、捕まえる人を間違っているから!! 絶対にミシャのほうでしょう!?」


 そう叫んでリジーは私のほうへやってきて腕を伸ばす。けれども私の透明化していたジェムがリジーの手をいなした。

 私に触れる前に見えない何かの力で軌道が逸らされたので、リジーは驚いているようだった。


「へっ!?」


 ジェムの見事ないなしでバランスを崩したリジーはあっという間に拘束された。


「ちょっと! 強く握らないで! 赤くなるでしょう!?」

「うるさい!!」

「うるさいのはあんた達のほうで――もがっ!」


 最後は猿ぐつわか何か装着されたのか、大人しくなった。馬のいななききと馬車が出発するような音が聞こえる。


「彼女は保護者のおうちに送り届けていただきますので、どうかご心配なく」

「ははは、どうも」


 心配なんて欠片もしていなかったが、きちんと責任元に連行してくれるようでホッと胸をなで下ろした。


「その、ありがとうございました。あと、リジーが失礼を働いてしまい、本当に申し訳なかったです」

「いえいえ。お友達でもないお相手だったのでしょう?」

「まあ、はい」


 店員さんは私だけでなく、アリーセとノアも気遣ってくれた。


「あなた方もあの女性がエルノフィーレ殿下の侍女だったので、何も言えなかったのでしょう?」


 ふたりは同時に頷く。ノアなんかは特にリジーの言動を我慢していたからか、聖水をお店の前に撒きたいとまで言っていた。


 それにしても、店員さんの察しのよさがとんでもない。さすが、王都で大人気のお店に勤めているだけある。


 何はともあれ、問題は解決したのでゆっくり選ばせていただこう。

 なんて考えていたら、驚きの提案を受けてしまった。


「では、個室にご案内しますね」

「え!?」


 私とアリーセ、ノアの三人は揃って目が点となった。

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