リジーと共に
「ねえミシャ、あんた、お付きでやってきたの?」
それはリジーもだろう、と言いたいのをぐっと堪える。
どういう返答をしたら私に対して興味をなくすのか、考えてみるもなかなか思い浮かばず。
私自身がここのドレスを選ぶ権利がある、なんて言った日には、余計にしつこく絡んでくるに違いない。
「あ、そうだ! あんたに似合いそうなドレス、あたくしが選んであげようか?」
「別に必要ないわ」
「いいからいいから! あたくし達の仲じゃない」
〝あたくし達の仲〟とはいったい?
私の元婚約者を奪って捨てておいて、よくものうのうと接することができるものだ。
リジーが私の腕をぐいっと引き、トルソに着せられたドレスが展示してあるほうへと誘う。
眉間に皺を寄せたノアが一歩前にでてきたが、アリーセがそれを制す。
入店前にリジーが何か生意気な発言をしても、言い返したり庇ったりしないでほしい、とお願いしておいたのだ。
一応、リジーはエルノフィーレ殿下のお付きである。何か不興を買ったら国家間の問題に繋がりかねないから。
なんでもかんでも好きに言わせておこう。それが私の作戦である。
リジーに何か言われることは幼少期から慣れっこなのだ。別にわかり合いたい相手でもないので、言い返す価値なんてないとも言える。
その考えをノアとアリーセは理解してくれた。
ただあまりにも生意気なので、ノアはついつい物申したくなったのだろう。アリーセが止めてくれてよかった。
リジーは私のドレスを選んであげるとか言いながら、瞳をキラキラ輝かせていた。
「さすが、社交界流行の最先端だ! こんなにきれいなドレスがあるなんて、信じられない!」
〝レディ・バイオレット〟の店員さんも素敵なドレスを着ていて、にこにこと微笑んでいる。リジーがドレスのリボンやレースを遠慮なく触っても、眉のひとつも動かさない。さすがプロだ! と感心してしまった。私もこれくらいの寛大な心を持たなければ、と思った。
「ミシャ、あたくしは今度の夜会で、結婚相手を決めるの!」
「へえ、そう。上手くいくといいわね」
「上手くいくに決まっているじゃない。あたくしを好きにならなかった男なんて、これまでいなかったんだから!」
それは領地のごくごく狭い中での話だろう。
故郷であるラウライフではたしかに一、二を争うくらいの美人かもしれない。
けれども魔法学校内にはきれいな人達が大勢いる。
さらに、リジーは眩いばかりの美貌の持ち主であるエルノフィーレ殿下の隣にいるのだ。
大輪の百合みたいに清楚で美しいお方の傍にいたら、リジーや私みたいなのなんてペンペン草にしか見えないだろう。
「学校内ではみんな、みーんなあたくしを振り返っているのよ」
それは単に一緒にいるエルノフィーレ殿下を見ているだけだ。
これまで学校内で何人に声をかけられたか、と聞きたかったものの、リジーのプライドを傷つけてしまいそうなのでやめておいた。
「実はあたくし、心に決めている男がいるの!」
「へえ、誰?」
「わからないわ。でも、転入してきた日に、講堂に集まって挨拶をしたでしょう? そのときに遅れてやってきた、いい男がいたのよ」
「へえ」
リジーのお眼鏡に適う気の毒な男性がいたとは。
これから彼がリジーのアプローチを受ける展開を考えると、気の毒になってしまう。
「一学年の生徒?」
「いいや、違う。大人っぽかったから、三学年だと思う」
「ふうん。どんなふうにかっこよかったの?」
「もう、見たこともないくらいのいい男だったんだ! 周囲の生徒達も一目おいている感じで、毛並みがよかったから、きっと良家のぼんぼんに違いない」
「毛並みって」
犬猫ではあるまいし……。
話を聞いているうちに、だんだんと相手の男性が気になってきた。
「髪色とか瞳の色とか、他の特徴でわかるものはある?」
「もちろん! 金色の髪に緑の目を持った、他の生徒とは違う格好をしていて、金のチェーンがついたブローチをつけていたよ」
「金の髪に緑の瞳、他の生徒とは違う格好で、金のチェーンがついたブローチ……?」
「あれ、絶対純金だった! お金持ちに違いないよ!」
その金のチェーンがついたブローチというのは、監督生長の証ではないのだろうか?
髪と瞳の色も、一目おかれている感じも、該当者はひとりしかいなかった。
ヴィルに間違いない……。
お気の毒に、と思うのと同時に、胸が嫌な感じに脈打っていた。




