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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第一章 衝撃の転校生

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気づいたこと

「そういえば食堂で食事はされたのですか?」

「ああ、なんとか」


 人が多い場所は苦手だと言っていたものの、たまには周囲に馴染んで行動することも大事だと思い、頑張って食事を終えたらしい。


「ヴィル先輩に協調性が生まれたのですね!」

「ミシャの行動で学んだ、見よう見まねの協調性だがな」


 ただそれも無理はしないでほしい。ヴィルが人混みが苦手になった理由を知っているので、手放しに喜べないのだ。


「どうします? 明日からお弁当にしますか?」

「いや、いい。しばらくは食堂で食事をしよう」


 なんでも今日、食堂で生徒達の会話からさまざまな情報を知ることができたらしい。


「好きな教科、嫌いな教科、寮生活での悩みや楽しみ、教師や家族との関係など」


 魔法学校に在籍する中でヴィルが聞くことがなかった、同級生の声だったという。

 それらは一見して必要のない情報に思える。けれどもヴィルにとってはとても新鮮な内容だったらしい。


「そんな話を耳にするのも悪くない、と食事をしながら思ったのだ」


 卒業すれば同年代の者達と集団で過ごす機会などなくなる。これは人生の中でも貴重な時間なのだ、ということに気づいたようだ。


「同年代の者達の会話を聞くのはなかなか面白い。しかしながら、好きな人についての話を聞いた途端、嫌な予感がして――」

「一学年の食堂までいらしたのですね」

「そうだ」


 今度からヴィルが心配しないよう、アリーセやノアと一緒に昼食を食べたほうがよさそうだ。


「私と昼食を共にすることによって、ミシャの交友関係を狭めているのではないか、と思って。それもどうかと考え直すようになったのだ」


 そう発言したあと、ヴィルの動きがぴたりと止まる。


「どうかしたのですか?」

「いや、たった今、ミシャの交友関係を狭めてきたと思って」


 アダンとの会話中に割り込み、睨んできたことを言っているのだろう。


「その交友関係は、可能であればミシャを邪な目で見ない者がいい。同性ならば安心だが、エア・バーレという例外の異性も存在しうるから……難しいな」

「可能な限り、ヴィルが困らない相手と交流をするようにします」

「そうしてくれると非常に助かる」


 そんなわけで今後も食堂通いをすることが決まった。

 ヴィルは友達を作ることを目標としているらしい。


「対等な関係など、難しいかもしれないがな」

「友達は学校内と限定せずに、世界とか広い範囲で探してみてはいかがでしょうか?」

「世界か、いいな。それくらい広ければ、私と付き合ってくれる者もいるだろう」


 ヴィルにもいつか対等な関係を築ける友達ができたらいいな、と思った。

 そろそろお昼休みが終わりそうだったので教室に戻ろうとしたのだが、大事な要件があったことを思い出した。


「そうだ! その、今日の夜、ノアに頼まれてヴィル先輩との食事に同席することになったのですが」

「ああ、ノアから聞いている」


 ヴィルも食堂でいろいろあったので、すっかり失念していたようだ。


「大事なお話をすると言っていたのですが、私がいてもいいのですか?」

「問題ない。むしろミシャがいたほうが都合がいいだろう」


 いったい何を話すつもりなのか聞いてみたら、私達の婚約について報告するつもりだったらしい。


「婚約……まだ話されていなかったのですね」

「互いに別の寮に住んでいたら、なかなかゆっくり話す機会もないからな」


 これまでのヴィルであればノアに知らせる判断などしなかったという。けれども今はノアが少しだけ心を開いているように思えたので、食事に誘ってみたという。


「心を開いて、ですか」

「ああ。人前で見せる明るい姿は演技だとわかっていたからな」


 たしかにぶりっこ全開で振る舞う様子は本来のノアではない。周囲の人達から愛されるように努力をした状態だったのだろう。

 その演技を頑張るあまりストレスが溜まっていたのか、息をするように毒を吐いていたかつてのノアを思い出す。今は少しずつ本来の明るさを取り戻しているように思えた。


「ゆくゆくは普通の兄弟のように話すことができればいいと思っているのだが、難しいだろうか」

「そのー、ひとつ言わせていただけたら、ノアはお兄さん大好きっ子ですからね」

「そうなのか?」

「やはり、気づいていなかったのですね」


 ノアがいかにヴィルに憧れ、尊敬し、話したくても話せない状況なのか、これでもかと伝えておく。


「私達は会話を重ねる努力をしなければならないようだな」

「ええ」


 人並みには仲のいい兄弟になってほしい。そう願ってしまった。

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