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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
四部・第一章 衝撃の転校生

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魔法学校の食堂

 食事をいただく場所は各階に用意されているらしい。昼食時の混雑を緩和させるために階をわけてあるのだろう。


「ミシャ、あっちに昇降機があるんだ。いこう」

「そうなのね」


 てっきり階段を上って三階までいくものだと思っていたが、魔石を動力源とする昇降機があるらしい。ありがたい、と思いつつ乗り込む。


「ちなみにこの昇降機は一学年の生徒は二階に行けないようになっているらしい」


 逆に、二学年の生徒は一学年が利用する三階に行けないような仕組みになっているようだ。

 なんでも学年が異なる生徒同士のトラブルを防ぐ目的があるという。


「なるほど。一階は三学年の目もあるから、みんないい子にしているというわけなのね」

「みたいだ」


 過去に魔法学校で食べ物を巡る争いがあったそうな。


「人気のメニューとそうでないメニューがあって、人気メニューは上級生が食べるべきだーって主張する奴がいて長年従っていたみたいなんだけれど、それに反抗する下級生が現れて、それをきっかけに大きなトラブルに発展していったんだと」


 食べ物の恨みというのは根深いものなのだろう。

 その事件をきっかけに、学年ごとに食べるエリアをわけよう、という決定が下されたようだ。


「入り口を通ったときに生徒手帳の情報を読み込んでるらしくて、そこで判別しているみたいだ」

「へえ、そうだったの。だから生徒手帳は持ち歩くように言われているのね」


 ただそのシステムにも例外があるらしい。


「監督生はどの階も行き来できるみたいだ」


 抜き打ちでたまに監督生が食堂を覗きにやってくるのだとか。そのときは皆、緊張しながら食べているという。


「今日はミシャ以外の監督生はこないといいなー」

「そうね」


 一度に三十人は運べるという大型の昇降機で三階まで行き着く。

 そこは森の中をイメージしたのか、木々や草花などが並んだ空間だった。


「床、草なの!?」

「びっくりするだろう?」

「ええ」


 一階はごくごく普通の食堂なのに、二階と三階はそれぞれ異なるコンセプトがあるらしい。


「二階は花だったかな」

「そうなのね」


 いったいどんな空間になっているのやら。二学年で食堂を利用する楽しみが増えただけだ。


「あっちにある小リンゴが生っている樹があるだろう? あれは自由に採って食べていいらしい」


 なんでも生徒が楽しめるよう、ここにはさまざまな果樹が植えられているのだとか。


「利用しない時間は魔法で温度調節をして、育てているんだって」

「驚きだわ」


 冬は小リンゴ、春は木イチゴ、夏はオレンジ、と生徒達が好みそうな果樹があるという。


「まあ、デザートにも果物は並んでいるから、採っていく奴は少ないけどな」

「ふうん」


 エアはたまにいただいて放課後のおやつにしているらしい。


「勉強するときのいいお供になるんだ」

「いいわね。私も貰っていこうかしら?」

「おいしいやつ教えてやるよ」

「ありがとう」


 エアは丁寧に食堂の使い方を教えてくれるのでとてもありがたい。

 辺りをキョロキョロと見回していたのだが、料理が並んでいる場所が見当たらなかった。

 料理の匂いなどもなく、ただ皆、列を成して並んでいる。


「ねえエア、料理はどこにあるの?」

「ああ、そうだ。料理の取り方も特殊なんだよ」


 ひとまず列に並ぶという。皆、料理が載っていない細長いテーブルにトレイとお皿を置いた状態で待っていた。


「ミシャ、ここでは魔法陣の上で提供されるんだ」

「えっ!?」


 なんでもテーブル上にメニュー名と魔法陣が書いてあって、そこにお皿が載ったトレイを置き、食べたい量を口にするか指先でなぞる。すると料理が鍋から転移されてくるという仕組みらしい。


「前に食中毒騒動があっただろう? それ以降、なるべく人の手を介さずに料理が提供されるようになったそうだ」

「そうだったのね」


 小舞踏会で発生した皮膚菌は人の手によってもたらされたものだった。

 そのため学校側も全力で対策に当たったのだろう。


「今日、何が選べるかも、〝メニュー〟って口にすれば魔法で浮かんでくるんだ」


 エアが言っていたとおり、本日のブッフェメニューが浮かび上がる。これがあれば料理の前で悩むということもなさそうだ。


「焼きたてパンに、ウサギのシチュー、豚カツレツにナッツオムレツ、冬野菜のマリネに鶏のロースト――どれもおいしそうだわ」


 メニューは三十種類くらいあるだろうか。

 生徒の中には体質によって食べられない食材もあるので、数多くの料理を作り、どの生徒もお腹いっぱいになるよう努めているようだ。


 五分ほどで私達の番となる。

 パンと書かれた文字の前に魔法陣が描かれていた。私は二個、と書かれた文字を指先で摩る。すると、どこからともなくパンが転移してきてお皿に着地した。

 すごい技術だと感激してしまう。

 と、いちいち驚いている場合ではない。さくさくと選んで先へと進んだ。

 最後に飲み物を選択する。転移魔法で紅茶が届けられたのを確認すると、エアから「ミシャ、こっちだ!」と声がかかった。

 先に料理を選び終えたエアは二人がけのテーブルを席取りしてくれていたらしい。


「エア、ありがとう」

「いえいえ」


 二人がけのテーブルは十個ほどしかなく、いつも人気だという。偶然通りかかったときに空いたので、すかさず確保したようだ。


 料理はどれもおいしく、いつもより食べ過ぎてしまったように思える。

 デザートの小リンゴを取りにいこうとしていたところ、声がかかった。


「エア、今日どこにいたんだ? 探したぜ」


 ミントグリーンの髪色の、活発そうな男子生徒が声をかけてくる。クラスメイトではない。先ほどエアが話していた、食堂で会う友達なのだろう。


「あー、今日はミシャと食べていたんだ」

「ミシャ?」


 ここで男子生徒は私の存在に気づいたようだ。


「お前、いつの間にか恋人ができたのか!? ひとりだけ抜け駆けだぞ!!」

「違うって、ミシャはクラスメイトでお友達!」

「お友達って……」


 信じがたい、という目で見られる。

 魔法学校では男女と友達付き合いをするのはかなり珍しいようで、恋人と勘違いされたのだろう。


「ミシャ、この人はアダン。アダン・デンガー」


 エアは同じようにアダンにも私を紹介していた。


「同じ庶民出身で、仲良くなったんだ」

「ああ! エアは数少ない庶民同盟だよな!」

「そうそう!」


 エアとアダンは肩を組み合い、楽しそうにしていた。エアに気が合うお友達がいることがわかって、なんだか嬉しい。


「エアにこんなかわいいお友達がいるなんて羨ましいぜ。よかったらお近づきに――」

「アダン、ミシャは止めておいたほうがいい」

「なんでだ? もしかしてお前、この子のことは実は好きなのか?」

「友達としては大好きだよ。でも、そういう意味じゃない!」


 エアが言葉を選んでいると、ざわざわと周囲がざわめく声が聞こえる。皆の視線は私達の背後にあるようだ。

 何かと思って振り返ったらそこにヴィルがいた。

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