お昼になったら食堂へ
お昼になったので食堂に向かおうか。
ジェムは人が多いところに行くというと、教室の壁に張り付いたまま気配と姿をそっと消していた。ひとりでいってこい、ということなのだろう。まあ、いつものことである。
入学してから初めての食堂の利用だ。ブッフェ形式だと聞いていたのだが、どんなメニューがあるのか楽しみだ。
本日は食堂内をゆっくり見学したいので、監督生の外套は脱いでおこう。
いそいそと食堂のほうへ向かっていたら、エアが声をかけてきた。
「ミシャ、もしかして食堂で食べるのか?」
「ええ、そうよ。監督生は昼食代が免除されるみたいで」
「そうなんだ! いいなー、俺も監督生を目指そうかな」
エアの食事代は後見人であるミュラー男爵が支払っている。返済の必要もないようだが、エアはそれがミュラー男爵に対して申し訳ない、と思っているのだろう。
「エアはいい監督生になりそう」
明るくはきはきしていて、面倒見がいい。私よりも監督生の適性があるように思えるのだ。
「でも俺、他人がルール違反をしても、別にいいじゃんって思いそうだから向いていないかも」
なんでもエアは何をするにおいても自己責任、という気持ちが強いらしい。本人がいいと思ってやったことであればそれを貫けばいい、と思ってしまうようだ。
「生まれたときから俺がそうだったからさ」
母親は病弱で親族の支援はなく、何をするにおいても自分頼りだった。彼はまだ十八歳であるものの、考えはしっかり大人なのだ。
「だからさ、学校側がこうあるべきだっていう監督生の型にはまらないような気がする」
「エア、すごいわ。自分のこと、そこまでわかっているのね」
監督生の任命に異議を唱えることを失敗し、流されるように就任してしまった私とは大違いである。
「いやー、まー単純に頑固だってことなんだよ」
そんなことを話しているうちに食堂にいき着く。
そこは全校生徒の収容を可能とする、巨大なホールだった。席数はどれだけあるのか。数え切れない。
入り口の床に魔法陣が刻まれていて、そこを通過すると食堂を利用すると見なされ、出口にある魔法陣を抜けると金額が請求されるシステムらしい。
「利用が確認されたら自動的に親へ請求がいくようになっているから、ここで食券を買う必要はないんだ」
「ふうん、そうなの」
親側の支払いが滞ると利用停止となり、食堂に入ろうとすると結界が張られて入場できなくなる仕組みだという。
「まあでも、そういうときは出口で特別な手続きをしたら、利用できるみたいなんだ」
生徒が食事を抜きにするというのはあってはならないことである。そのため、学校側が食費を負担し、生徒は放課後か休日に奉仕活動をすることによって返済するようだ。
「食費の負担は回数制限とかないみたいで、何度利用しても罰則は受けないらしい。ただ、奉仕活動はかなりきつくて時間を要するから、勉強する時間がなくなるみたいなんだ」
何度も食費負担をしてもらった挙げ句自習する時間がなくなり、その後、退学する生徒も少なくないという。ただそういう生徒は親が学費を払う能力を失っている場合が多々あるらしく、奉仕活動のやり過ぎだけが退学の原因ではないようだ。
「食堂ひとつにも、いろいろあるのね」
「だろう?」
食堂を利用しなかったら知りうるはずもなかった話である。
「私は初日に食堂メニューの値段を見て回れ右をしただけだから」
「同じく、だったな。気持ちは俺もよくわかるよ」
ちなみに週に三日がブッフェ形式で、残りの三日が三種の定食から選ぶようだ。
今日はブッフェ形式の日である。
魔法陣の上を通ると呪文が輝く。エアが通ったときは青く光ったが、私が通ったときは緑色に光った。
「え、何これ?」
「たぶん、食費が免除される人の輝きだろうな」
監督生の他に奨学生や貴賓などが通ったときもこの色になるようだ。
「ミシャ、安心してたくさん食べろよ」
「ええ、そうね」
食堂内は思っていたよりも広くて驚いた。
形状は円形で、天井が高く吹き抜けとなっている。窓が広く、太陽の光がこれでもかとさんさんと降り注いでいた。私やノアみたいな色素が薄い人達にとっては、少々眩しすぎる環境である。黒目だった日本人時代に少しだけ戻りたい、と思ってしまった。
「すごいわ! 三階まで全部食堂なのね!」
「ああ。一学年が三階、二学年が二階、三学年が一階って決まっているんだ」
「そうなの」
ヴィルと待ち合わせをしていたのだが、一緒に食べることは難しそうだ。
そうでなくても、この人混みの中でヴィルを発見するのは困難なように思える。
どうしようか、と思っていたら鳥翅魔法が飛んできた。それはヴィルから届いたもので、食堂は人が多く独自の決まりがあるようなので、各自で食べよう、という内容が書かれていた。
「ミシャ、何かあったのか?」
「いえ、ヴィル先輩と一緒に食べる予定だったのだけれど、私達は食堂のルールをよく知らなかったから、別々に食べよう、という話になっただけよ」
「そうだったのか。だったら一緒に食べようぜ」
「いいの?」
「ああ!」
普段、エアは決まった人と食べるのではなく、その場で会った友達と一緒に料理を囲んでいたらしい。クラスメイトだけでなく、食堂でできた友達もいるようだ。
「だいたい三階にいったら、誰かが声をかけてくるんだよな」
「さすがエアだわ」
両手で足りるくらいの人数としか交流をしない私とは大違いであった。




