届いた手紙
ヴィルは国王陛下から呼び出されているようで、私はひとりで帰宅することとなる。
何やら手紙が届いていたようで、チンチラが持ってきてくれた。
『手紙、届いた』
「ありがとう」
チンチラに続いて他の子達もやってくる。
私が授業を受けている間、温室で作業をしていたようで、髭や毛に土が付いていた。
手紙をポケットに入れてハンカチを取りだすと、一匹一匹土を払ってあげる。
ジェムもやってくれと近づいてきたが、土なんか付着していない。
けれどもやらなかったら拗ねるだろうと思って、適当にパッパと払っておく。
すると、飛び跳ねて喜んでいた。
「みんな、おやつの時間にしましょう」
そう声をかけると、皆わーい! と喜んでくれた。
昨日焼いておいたカステラを切り分け、みんなに分けてあげる。働きに対する報酬だった。
彼らにはいろいろなお菓子を焼いてあげているが、一番のお気に入りはカステラらしい。何を食べたいか、と聞くと必ずと言っていいほどカステラと答えるのだ。
おかげで、週に三回くらいカステラを焼いている。
列の最後にはなぜかジェムが並んでいた。皆がおいしそうに食べているので、欲しくなってしまったのか。
これまで私の作った物を欲したことなんてなかったのに。
まあいいか、と思ってジェムにもカステラを分け与えた。
ジェムは触手を伸ばして受け取り、口ではなく腹部にカステラを入れ込む。
「いや、食べ方が独特……。口があるんだから、そこから食べたらいいのに」
胃に直接ぶちこんだ感じなのだろうか。
よくわからないが、ジェムが嬉しそうな様子だったのでよしとしよう。
チンチラ達と温室の確認をしたが、私がするよりも丁寧に手入れがなされていた。
みんなに感謝の気持ちを伝え、いい子、いい子と撫でて回る。
ここでも、最後にジェムの姿があった。
仕方がないと思って、ジェムも撫でてあげる。
「はいはい、ジェムもいい子!」
満足したのか、ジェムはどこかに転がっていった。
夕食は鶏肉と野菜を煮込んだスープにしよう。野菜をきれいに洗って、切らずに皮のまま鍋に入れて鶏肉と一緒に煮込んでいく。材料がくたくたになるまで煮込む、やる気ゼロで作るスープだった。
ことこと煮込ませている間、私は届いた手紙を開封した。
妙に手触りがいい、上質な封筒だったので、嫌な予感がしていた。差出人も確認せずに、ポケットに詰め込んでいたのだ。
美しい文字でミシャ・フォン・リチュオル様へ、と書かれてある。
封筒をひっくり返すと、王家の紋章入りの封蝋が押されていた。
「こ、これは……!」
見なかった振りをしたかったものの、相手が相手なのでそうもいかない。
すぐに開封し、中を確認した。
入っていたのは、ルームーンの第二王女エルノフィーレ殿下を歓迎する夜会への招待状である。
開催は十日後、王宮にて開かれるようだ。
招待するならば、もっと早くしてほしい。いきなり言われても、その場に相応しいドレスなんて持っていないのに。
文句を言いたくなったが、私が招待されたのはヴィルの婚約者だからだろう。
ヴィルから話を聞いていたときに、私も行動を起こすべきだったのだ。
とは言っても、両親に相談すること以外できなかったのだが……。
十日後にドレスが必要だと言われても、両親は困るだけだっただろうが。
さて、何を着ていこうか。
社交界デビューのドレスは借り物で、あったとしても、あれは特殊な形のドレスゆえ、他の夜会に着ていけないのだ。
どうしようか、と頭を悩ませているところに、もう一枚、何か入っていることに気づく。
「こ、これは――!」
封筒には招待状の他に、ドレスを販売する、〝レディ・バイオレット〟の商品の引換券が入っていた。
オーダーメイドの予約は三年先、既製品も店頭に並んですぐに売り切れるという、超絶な人気店である。
私がドレスで困るだろうことは、お見通しだったのだろう。
ただ、こういうお店に行ったことなどないので、緊張してしまいそうだ。
アリーセかノアが一緒に来てくれるだろうか。
明日、ダメ元で誘ってみよう。




