呆れたリジーの態度
エルノフィーレ殿下を教室へお連れすると、クラスメイト達の注目が集まる。
皆、王女殿下相手にどう接していいものか、わからないのだろう。
そんな中で、行動を起こしたのはレナ殿下だった。
「エルノフィーレ殿下、初めまして。私はレナ・フォン・ヴィーゲルトと申します。お会いできて光栄です」
レナ殿下は一応、王太子ということは隠して学校に通っているものの、一度お披露目をしたので、その設定も死んでいるも同然だろう。
エルノフィーレ殿下は相手が王太子だと把握しているのか、丁寧な態度で挨拶を返していた。
「わたくしのことはどうぞ、エルノフィーレとお呼びくださいませ」
「では、私はレナと。お互い、敬語はなしにしましょう」
「ええ、そう、ね」
王族同士の挨拶が終わると、続いてノアがやってきた。
リジーのさらに上をいく堂々とした態度で、エルノフィーレ殿下に話しかける。
「初めまして。私はレナ様の〝婚約者〟である、ノア・フォン・リンデンブルクです。どうぞ、お見知りおきを」
エルノフィーレ殿下がレナ殿下との結婚を望んでいる、という噂話を耳にしていたのか、婚約者という言葉を強調させ、強くけん制するような自己紹介だった。
なんというか、強い。
エルノフィーレ殿下は顔色ひとつ変えずにいたのが、さらにすごいなと思った。
少々ぴりついた挨拶を終えると、ホイップ先生がやってくる。
エルノフィーレ殿下は新しく用意された一番前の席に座り、リジーはその後ろの席に腰を下ろしていた。
「さてさて、新しいクラスメイトの紹介はしなくてもわかるだろうけれど、ルームーンの第二王女エルノフィーレ殿下と、そのお友達、リジーが転入してきたのお。みんな、空気をよ~~~く読んで、仲良くしてねえ」
今後隣国の王女相手にいらんことはするな、というニュアンスが含まれたお言葉だった。
クラスメイト達は戦々恐々とした顔を浮かべ、神妙に頷く。
同じクラスに王太子と隣国ルームーンの第二王女が在籍するという、スペシャル高貴なクラスが爆誕してしまった。今後、どうなるのか。
大きな事件だけは起きないでくれ、と願うばかりであった。
◇◇◇
一限目の授業は魔法歴。魔法の歴史について順を追って学ぶ授業だ。
リジーは一限目から爆睡するという暴挙にでていた。教科書はださず、机にハンカチを広げて眠るという、念の入れようである。
彼女は本当に魔法を学ぶ気があるのか、と疑問だったものの、さらさらなかったようだ。
先生も注意するものの、リジーはまったく起きなかった。それなのに、休み時間になると起きて、元気いっぱいな様子でエルノフィーレ殿下に話しかけていた。
そして、次の授業が始まると眠り始めるのである。
監督生として見過ごすわけにはいかないと思い、休み時間になった瞬間、リジーを起こしにいった。
「ねえ、リジー、起きて」
「うるさいわねえ!」
「いいから起きて」
「何よ!」
「何よ、じゃないわ。授業中、眠るなんて先生に失礼よ!」
ここでリジーは顔を起こし、ムッと不快感溢れる表情を私に見せる。
「あんた、何様のつもりでこのあたくしに注意しているんだ!?」
「監督生様よ!!」
「は!? 何それ!?」
監督生だけが持つことができる金細工とチェーンの輝きは、魔法学校になんのリスペクトもないリジーに効果は発揮しなかったようだ。
「このあたくしに意見しようだなんて、ミシャの癖に生意気なのよ!」
「まっとうな意見よ。みんなここで魔法を学びたくてやってきているのに、堂々と眠る人がいたら、授業の邪魔になるでしょう?」
「そんなの知らないんだから! あんまりやいやい文句を垂れるんだったら、養父に言いつけてやる!!」
リジーは勝ち誇ったような顔で聞いてくる。
「ミシャ、あたくしの養父について、知っているのかしら?」
「もちろん。ツィルド伯爵でしょう?」
「そう! あんたの父親は子爵で、あたくしの養父は伯爵なの! どっちが偉いかなんて、あんたでもわかるでしょう?」
「ええ、まあ」
「見てなさい! あんたの父親なんて、あたくしの養父がひねり潰してやるんだから!」
父親が偉いからなんだ。別になんともしない。
リジーの養父が伯爵だからといって、他の貴族に制裁を加える権利なんてないのに、リジーはいったい何を言っているのか。理解不能である。
「リジーと話をしていると、頭が痛くなるわ」
「あたくしの言っていることが、理解できないからでしょうね」
「まあ、ある意味そうだろうけれど」
リジーは勝った、とばかりの笑みを浮かべていた。
「見てなさい。あんたの実家は、あっという間に没落してしまうんだから!」
「――へえ、そんな権限をツィルド伯爵は持っているんだ」
突然、私達の会話に介入してきたのは、ノアだった。
「あ、あんたは?」
「ノアだ。覚えていなかったのか、この鳥頭!」
「と、鳥!?」
リジーの顔が怒りで真っ赤に染まる。
ノアはリジーにぐっと接近し、他のクラスメイト達には聞こえないような低い声で囁いた。
「僕の父親はリンデンブルク大公で、この魔法学校の理事でもある。お前の養父よりもずっとず~~っと偉いんだ。だから、お前を潰すことなんて、呼吸することよりも容易いんだよ」
意味がわかったのならば、真面目に授業を受けろ。ノアは脅すようにリジーに言ったのだった。




