ラウライフへ
ヴィルとお喋りしているうちに、あっという間にラウライフへの出発時間となった。
セイクリッドと私達が乗り込む車体は校庭に召喚するようで、夜の魔法学校の敷地内をヴィルと一緒に歩いていく。
暗くて危ないからとヴィルが手を繋いでくれたのでドキドキしていたら、逆の手をジェムが変化させた手で握ってきた。丸いジェムの体に、リアルな人間の手が生えているので不気味としか言いようがない。
おそらくヴィルに張り合ったのだろうが……。
ヴィルの背後にはハリネズミにモモンガ、アライグマに猫など、たくさんの魔法動物達が列を成している。見送りをしにきてくれたのだろうか?
その様子は愛らしいとしか言いようがない。
校庭に到着すると、ヴィルはセイクリッドを召喚する。
巨大な魔法陣が浮かび上がり、トレーラーハウスみたいな建物と一緒にセイクリッドが登場した。
「あの白い建物で、ラウライフまで移動する」
「はあ、あんなに大きな車体があるのですね」
セイクリッドと車体は繋がっていないように見えるが、目には見えない魔力で繋がっているらしい。
今回、長距離移動になるので、セイクリッドに声をかけておく。
「セイクリッド、ラウライフまでよろしくね」
『みっ!』
かわいらしく鳴くセイクリッドの鼻先を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めていた。
すかさず、私はジェムもよしよしと撫でておく。
こうでもしないと、何をしでかすかわからないからだ。
「ミシャ、こっちが出入り口だ」
「はーい」
ヴィルが扉を開き、車内へと誘う。
寝台特急のような内装かと思いきや、立派な部屋だったので驚いた。
天井には水晶のシャンデリアがあり、ふかふかの絨毯が敷かれ、左右向かい合う形でソファーベッドがある。天蓋付きで、カーテンが付いており、眠るときは目隠しができるようだ。
中心にはテーブルが置かれ、フルーツの盛り合わせやお菓子、茶器などが用意されている。なんとも豪奢な車体だ。
「大公家が所有する、宮廷車両と呼ばれるものだ」
「すばらしいとしか言いようがありません」
他にもお風呂や洗面室、トイレ、ちょっとしたキッチンも完備されているらしい。
「大公家はこのような物も所有されているのですね」
「いや、もともとあったわけではなく、将来を見据えて購入した」
「将来、ですか?」
「ああ。新婚旅行……いいや、なんでもない」
何か耳に届いた気がしたが、聞かなかったことにした。
ジェムが乗り込んだのを確認したあと、ヴィルがセイクリッドに合図をだす。
すると、上昇を始めたようだ。
魔法動物の見送りを受けながら、私達はラウライフを目指す。
「外が真っ暗なのでわからないのですが、ぜんぜん飛んでる感じはしないですね」
「セイクリッドの飛行技術は世界一だからな」
飛行中に眠れるものなのか、と思っていたが、この環境ならば熟睡できるだろう。
なんて、思った瞬間もありました。
ヴィルと二人きりとなったこの部屋で、私は眠れるものなのか。
意識したら、余計にドキドキしてしまう。
「ミシャ、明日は予定がいろいろあるから、早く眠っておいたほうがいい」
「そ、そうですね」
お風呂も入ったし、歯磨きもしたし、あとは眠るだけなのだ。
よくよく思えば、移動中はヴィルと二人きりになるのに、よく学校側は許してくれたものだ、と今更ながら思ってしまう。
おそらくだが、夜間に泊まり込みで移動することを把握していなかったのだろう。
まあ、いい。気にしたら負けだと思うことにする。
ソファーベッドに深く座ると、ジェムがカーテンを閉ざしてしまった。
まだおやすみなさいと言っていないのに。
カーテンから少し顔を覗かせ、ヴィルに「おやすみなさい」と伝えた。
すると、ヴィルは少し照れたような表情で、「ああ、おやすみ」と返してくれたのだった。