お土産を用意しよう
急に実家に戻りたいだなんて、学校側の許可がでるわけがない。
もしかしたら外出許可がでないかも! と思っていたものの、事の重大さに気づいたホイップ先生が校長先生に掛け合ってくださり、あっさり許可証が発行された。
そんなわけで無事、私とヴィルは一緒にラウライフへ行けることとなった。
ちなみにヴィルはすでに、鳥翰魔法で父に手紙を書いて送ったらしい。
ラウライフまで手紙を飛ばすために必要な消費魔力について考えるとゾッとするものの、ヴィルは平気だという。
父は返事を書いたとしても、ラウライフに行く日までに手紙を王都まで届けることはできない。そのため、父の反応を知らずに顔合わせとなる。
未来の大公であるヴィルが私と結婚をしたいと知って、さぞかし驚いたことだろう。果たして何を思うのか。私にも想像つかない。
ヴィルは多忙なようで、ラウライフへ出発する日の数時間前まで会えない予定だった。
五ヶ月ぶりの帰郷なので、お土産をたくさん用意しよう。
そう思った私は購買部でたっぷりの魔菓子と王都の社交界新聞、文房具などを購入した。
他にいつか渡そうと思っていた両親へのお揃いのカップ、妹クレアへのワンピースや、義弟となるマリスへのよく切れるナイフなども一緒に持っていこう。
それらすべてはジェムの中にしまい込む。
あっという間に、帰郷する数時間前となっていた。
旅立ちの準備も最終確認に取りかかる。
ラウライフは真冬なので、毛皮の帽子に耳当て、外套なども必要だろう。
ここでふと気づく。私の分の防寒服はあるものの、ヴィルの分はない。
大丈夫だろうかと心配していたら、ヴィルがやってきた。
ハリネズミの大家族と共にやってきた彼を玄関で迎え、ジェムが変化したテーブルや椅子でお茶を囲んだ。
「ミシャとの婚約が無事結ばれたら、室内で二人きりになっても平気になるな」
「ええ……。これまで大変でしたね」
社交界には未婚の男女が二人っきりになってはいけない、という鋼の掟がある。
これまでヴィルは学校内で二人っきりにならないよう、最大限の努力をしてくれたのだ。ガーテン・プラントで会うときも、家の中へは立ち入らなかった。
婚約者となればその決まりの強制力はほぼなくなり、二人っきりで会うのも致し方ない、というふうに見られるのだ。
「旅の支度は終わったか?」
「ええ、ほぼほぼ整ったのですが、一つ気になることがございまして」
「なんだ?」
「ラウライフでの防寒服についてです」
毛皮製品でないと、寒さに耐えきれないだろう。そんなラウライフの厳しい冬について伝えると、ヴィルは問題ないという。
「寒さを防ぐ結界を展開するから、防寒服は必要ない」
「それを聞いて安心しました」
ヴィルも懸念材料があるという。
「ミシャに相談したかったのだ」
「なんでしょう?」
「ミシャのご家族への手土産についてだ」
なんでも何を持っていこうか一人で考え込んでいたという。
「ミシャのようなすばらしい娘さんとの結婚を許してもらいにいくに相応しい土産とはなんなのか、どんな品であれば喜んでもらえるのか、ずっと悩んでいたのだ」
どこにすばらしい娘さんなんかいるというのか。ヴィルの私を見る目はどうなっているのか、疑問でしかない。
「ひとまず私なりに考え、これがいいのではないか、と思って持ってきてみた」
ヴィルが持ってきていたらしい鞄をテーブルの上に置く。
どかん! ととてつもなく重たい音が鳴り響いた。
まるで重石でも入れているのでは、と疑いたくなるような音である。
ヴィルは魔法で解錠したのちに、鞄の蓋を開いた。
中に入っていたのは――金の延べ棒。
「うわ、眩し!!」
ぎんぎらと輝く金の延べ棒を見ていられず、顔を逸らす。
金の延べ棒は全部で二十本くらいあった。
よくここまで持ってくることができたな、と感心してしまう。
もしかしたら魔法で重量を軽くしてから運んだのかもしれない。
「この程度で足りるだろうか?」
あろうことか、彼は金の延べ棒を私の実家へのお土産として選んだようだ。
ありえなすぎて、乾いた笑いを返してしまう。
「はは、あははは、ヴィルったら、こんな物を用意して」
「やはり、これでは足りないのか?」
ヴィルは真顔で問いかけてくる。
私はぶるぶる震えながら、なんとか声を絞って言葉を返した。
「ヴィル、この規模の金の延べ棒は、逆に私がヴィルと結婚するために持参品として用意しなければならない品です」
子爵令嬢が未来の大公と結婚するのだ。金の延べ棒が二十本くらいないと釣り合わない結婚である。
ちなみに金の延べ棒二十本というのは、日本円に換算すると億レベルである。
もしも私が王族で、余所の国へ輿入れするさいにヴィルが用意した金の延べ棒を持っていったら、大喜びで娶ってくれるだろう。
それほど大きな価値がある物なのだ。
「却下です、却下! こんな王族の持参品レベルの品物なんか、気軽にお土産でいただけるわけがありません!」
私の言葉を受けたヴィルは、そうなのか!? とショックを受けた表情を浮かべていた。
これだからお坊ちゃまは……と思ってしまったのである。




