捕獲大作戦!!
さっき私達と一戦交えたばかりだというのに、再度引っかかるなんて。
教師陣を翻弄していたというが、そこまで賢くないのかもしれない。
元使役妖精は大きなカステラを発見するやいなや、ぴょこんと飛び上がって喜ぶような反応を見せる。
そして一目散に駆け寄ってカステラを掴んだ瞬間、元使役妖精の体はマオルヴルフが掘った奈落とも言える穴の中へ真っ逆さまとなった。
『なんでえええええええええ~~~~!?』
悲鳴をあげつつ落下していった。
すぐさま私は虫取り網を握りしめ、ノアと共に穴のほうへと向かった。
このまま網で穴を封じればいずれ捕まるだろう。
そう思っていたが、穴から飛びだしてくるほうが早かった。
「うわっ!!」
「なんて早さだ!!」
すぐさま虫取り網をジェムに渡して捕まえてもらう。
ジェムは目にも留まらぬ早さで虫取り網をぶん回し、穴から飛びだしてきた物体を捕まえてくれた。
しかしながら、虫かごの中に転送されたのは、クッションとして穴に落とした枯れ葉を丸めたものだった。
「ミシャさん、これは囮だ!!」
「なんてことなの!?」
私達が右往左往している間に、元使役妖精は穴から這い上がる。
一度振り返り、バカにするかのようにべーっと舌先を覗かせていた。
「ジェム、触手で捕まえて!!」
逃げようとする元使役妖精に向かって触手を伸ばしたものの、触れる寸前でその姿が五つに分かれたではないか。
「え、何あれ!?」
「幻術か!?」
分裂した使役妖精達は散り散りになって逃げていった。
あっという間に姿が消えてなくなる。
「また逃げられてしまったわ」
「なんなんだ、あれは」
呆然としている私達にホイップ先生が遠隔で声をかけてくる。
『惜しかったわねえ』
「まさか分裂するなんて」
「信じられない」
『あれは分裂ではなくて、仲間を呼んだ状態だと思うの~』
ホイップ先生は先ほどの映像を転送してくれた。
私達の目の前に、ディスプレイのようなものが浮かび上がる。
『これを見てみて。五体いる元使役妖精の動きがそれぞれ違うでしょう~?』
幻術で作った分身であれば、同じ動きしかできないという。
『それにそれぞれ、特徴が異なっているように見えるの』
たしかに毛並みの艶や耳の立ち方、尻尾の長さなども異なる。
『仲間を召喚したようにも見えるのよねえ』
「もともと学校内で働いていた使役妖精達を、支配下に置いている、というわけですか?」
『その可能性が高いわあ』
ただ徒党を組むだけでなく、契約を通して支配しているとは。余計に厄介である。
「使役妖精達は学校側との契約があるので、上書きはできないのではないのですか?」
『そのはずよお。でも、なんらかの手段を用いて、契約破棄させたのねえ』
収納魔法が付与されたポーチの中からお菓子だけ引き抜くような能力の持ち主である。
もしかしたらかなり魔法に詳しい子なのだろう。
可哀想だと思って枯れ草をクッション代わりに入れていたのが、取り逃がした原因の一つだった。
作戦を遂行させるためには、甘い顔なんて見せてはいけないのかもしれない。
「捕まえられなくって、ごめんなさい」
「僕も、何もできなかった」
『そんなことないわあ。罠を作っておびき寄せることができるなんて、かなり優秀よお。それに姿も記録できたから、お手柄ねえ』
元使役妖精の姿は記録され、教師陣に拡散されたという。
『姿すらわからない状況だったから、本当に助かったわあ。ありがとう』
カステラをかなり気に入っているようなので、それに特化させた作戦を実行する、という案をホイップ先生は提案するようだ。
『そのカステラというのは、どこに売っているのかしらあ?』
「私の手作りお菓子なんです。きっと王都には売っていないかと」
『だったら、今から作ってもらうことはできるかしらあ?』
「カステラを、ですか?」
『ええ、そう。材料はこちらで用意するから』
「わかりました」
ホイップ先生が調理室を確保し、私が指定した材料が運び込まれる。
「ミシャさん、僕、料理したことはないけれど、なんでも手を貸すから」
「ノアさん、ありがとう」
ジェムはどこで覚えたのか、頭に三角巾を巻いていた。やる気は十分あるようだ。
そんなわけで、元使役妖精を捕まえるための餌となる、カステラ作りを始めよう。