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捉えたその姿

『ギャアアアアアアアアア!! 辛い、ピリピリ、痛いいいいいいい!!』


 耳をつんざくようなキイキイ声が中庭に響き渡る。

 振り返った先にいたのは、チンチラみたいなもこもこした小動物だった。


「あいつか!!」


 ノアが箒を投げ捨て、ベンチのほうへと走る。


「待って、ノアさん! 近づかないほうがいいわ!」


 なんて、制止したが遅かった。

 ノアさんは幻術の炎を噴くチンチラへ手を伸ばし――。


「僕のカステラを食いやがって!!」

『お、お前の仕業か!?』


 チンチラの瞳が怪しく光り、魔法陣が浮かび上がる。

 周囲に転がっていた石が浮かび上がり、弾丸のように放たれた。

 回避は間に合わない。そう思った私は叫んだ。


「ジェム、ノアさんを助けて!!」


 私の傍で薄く伸びていたジェムだったが、すぐさま反応し、ノアのほうへと飛んでいく。

 石がノアに当たろうとした瞬間、盾と化して弾き返してくれた。


「ジェム、捕まえて!!」


 そう命じるやいなや、ジェムは触手をチンチラへと伸ばした。


『クソ!!』


 チンチラは悪態を吐いたあと、ジェムの触手から逃れ、どこかへ逃げていってしまった。

 ジェムは追いかけようとしたものの、深追いしないほうがいいと思って止めておく。

 私はすぐさまノアのもとへ走り、無事を確認した。


「ノアさん、怪我は?」

「ない」

「よかった」


 ハッと我に返ったノアは、助けてくれたジェムと私にお礼を言ってくれた。


「ジェム、ミシャさん、ありがとう」


 ノアは胸を押さえ、がっくりと項垂れる。


「びっくりした。なんなんだ、あれは?」

「使役妖精なのかしら?」

「ああ、そうだった」


 ノアは驚き過ぎて、頭の中が真っ白になっていたようだ。


「あいつが僕のカステラを盗んだんだな」

「おそらく、そうなのでしょうね」


 ノアは拳を握り、ぶるぶると震えていた。わかりやすいくらい怒っている。


「ひとまず、ホイップ先生に報告に行きましょう」

「そのほうがいい」


 ホイップ先生は職員室にいなかった。他の先生もいない。

 残っていた事務官に聞いてみたが、どこにいるかわからないとのこと。


「校舎の中にいるホイップ先生を探すなんて、骨が折れるんだけれど」

「本当よ。緊急事態なのに」


 さて、どうしようか。と迷っていたら、ホイップ先生のデスクに走り書きを発見する。


「〝基本的に研究室にいるから、用事のある子はきてねえ〟ですって」

「見回りしてないじゃん」


 しかしながら手間が省けた。急いでホイップ先生の研究室に移動する。

 ホイップ先生は研究室にいて、積み上がった本に埋もれるような状態だった。


「あら、あなた達、どうしたの~?」

「ホイップ先生、私達、悪さをする妖精に出会ったんです!!」


 しっかり言語を発していたので、妖精で間違いないだろう。

 ホイップ先生は驚いた表情で聞き返す。


「あなた達が担当していた中庭で見たのかしらあ?」

「そうなんです」

「どんな子だった?」

「白くてふわふわした、チンチラみたいな見た目でした」

「そう……」


 収納魔法が付与されたポーチの中からお菓子を盗んでいったという被害を訴える。


「教師陣が束になって探しても見つけられなかった子を、あっさり発見するなんて……」

「あの子、学校で働いていた使役妖精なんですか?」

「そこら辺まで気づいていたのね」

「ええ」


 ホイップ先生は私達の推測を半分正解だと言った。


「あなた達が見たのは、魔法書の中に封印されていた元使役妖精なのよお」

「元、ですか」


 なんでもその元使役妖精は悪さばかり働いていたので、当時の校長先生が封印したようだ。


「百年くらい封じていたみたいだけれど、いつの間にか封印の効力が消失していたみたいで、学校中に散り散りになっているみたいなのよお」


 それだけならばまだよかったのだが、元使役妖精達は学校の敷地内で働いている使役妖精達をそそのかし、味方に引き込んでいるようだ。


「本当に困っているのよお」


 使役妖精が担っているのは清掃だけではない。

 学校内で使用する備品の管理や、教材の作成、購買部の在庫補充など、仕事は多岐にわたっているようだ。


「どうせ少ない対価で契約していたんだろう」

「それに関しては否定できないわあ」


 ホイップ先生は校長先生に頼まれ、使役妖精の捕まえ方を調べていたようだ。

 私達が激辛チップスで捕まえ損ねた話をすると、ホイップ先生はがっくりと項垂れる。


「そんな単純な作戦が成功していたのねえ」

「でも、反撃を食らいそうになって」

「まあ!!」


 ホイップ先生はカッと目を見開き、私達の体をペタペタ触って怪我がないか確認していた。


「そんな危険な目に遭っていたなんて、どうしてもっと早く言わないのよお」

「ご、ごめんなさい」

「考えもなしに行動した僕が悪いんだ」


 ホイップ先生は私達をぎゅ~~っと抱きしめ、無事でよかった、と言ってくれた。

 ただ抱きしめた状態のまま、ホイップ先生は動かなくなる。


「あの、ホイップ先生?」

「苦しいんだけれど」


 清掃作業に戻らないと、枯れ葉掃きは終わらないだろう。

 そろそろ戻りたい、と控えめに訴えたところ、まさかの回答が返ってきた。


「あなた達、このまま中庭に帰すわけないでしょう~~~~?」


 嫌な予感しかしなかった。

 

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