中庭掃除をしよう
私達が担当するのは、皆がランチを食べたり、休憩したりできる、ベンチなどが置かれたみんなのための広場的な範囲であった。
普段であれば落ち葉の一枚すら落ちていないのに、今日はどっさり枯れ葉が積み上がっている。
「な、なんなのこれ!?」
「どうしてこんなに荒れ放題なんだ?」
いつもは生徒達が帰ったあと、使役妖精達が清掃している、なんて話を聞いていた。
この状態は数日の間、何もしていないようにしか見えない。
ノアは顎に手を当てて、何か考えるような素振りを見せている。
「いったいどうして……?」
「もしかして、ストライキなんじゃない?」
「使役妖精達の?」
「ああ」
魔法学校の創立以来、ずっとこの学校にいるという使役妖精達は、日の目を見ることなく、せっせと働いてくれた。
何か心情に変化があり、任務を放棄したとか?
「契約で縛られているはずだから、逃げだしたということはしていないはずだ」
「そうよね。今、いったいどこにいるのかしら?」
「わからない」
一度も姿なんて見たことはない。どこか隠れる場所があるのだろう。
「先生達が原因追及しているのかもしれないわ」
「だからこその、清掃活動なんだろう」
生徒に校内の掃除を任せておけばきれいになる。その間に先生達は使役妖精達の調査ができるというカラクリなのだろう。
「突然の学校行事が謎でしかなかったけれど、納得できたわ」
「一刻も早く解決してほしいね」
掃除道具と枯れ葉を入れる麻袋を受け取り、中庭へと戻る。
途方に暮れそうになるくらいの枯れ葉を前に、深く長いため息が出てしまった。
「秋にこれだけ落葉するのはわかるけれど、冬にこんなに葉っぱが落ちるのはわからない!」
ノアは真っ赤な葉を持つ樹木相手に文句を言っていた。
「ノアさん、これはファイアー・リーフの樹よ。葉っぱは雪とかし草とも呼ばれていて、雪に触れると熱くなる性質を持っているの」
春から夏にかけて葉を付け、秋になると紅葉する。そして、冬になったら落葉するのだ。
そんなファイアー・リーフは雪国で重宝される樹で、裕福な家庭では必ずと言っていいほど庭に植えられており、雪かきをしなくてもよくなる。
ちなみに実家には一本もない。ラウライフに唯一ある商店の前に植えられているのを、毎年羨ましいと思いながら眺めていただけだった。
「これ、集めて故郷に送ったら家族が喜びそうだわ」
現在、ラウライフは余所の地域との交通が制限されるほど雪が積もっている。
ファイアー・リーフの葉でもあれば、雪かきをしなくていいので、大助かりだろう。
「だったら麻袋に集めたファイアー・リーフの葉っぱを送ってあげたら?」
「そうね。でも、勝手にしたら怒られそうだから、ホイップ先生に聞いてみる」
「それがいいかも」
中庭にはいったい何本のファイアー・リーフの樹があるのか。数えてみたら、三十本以上あった。
「すごいわ。ファイアー・リーフの樹がこんなに植えてあるなんて」
「ヴァイザー魔法学校は金に物を言わせて建てた学校だからね」
大昔の王都は雪が積もる日があったらしい。
けれども半世紀ほどで工場が増え、排出させる煙が原因で温暖化が進んでいって、今では雪が積もること自体が珍しくなってしまったそうだ。
「そういえば少し前に、大雪が積もった日があったよね。あれ、すごかったね」
「え、ええ、そうね」
言えない。その大雪は私とヴィルの魔力の共鳴状態でうっかり作ってしまったものであると。
「ミシャさんも本気になったら、ああいう大雪を降らせることができるの?」
「わからないわ」
あれはヴィルがいたからこそ降らせることができたものだろう。
「実は私、魔力の制御が下手なの」
「それって、杖が合っていないんじゃないの? あ、そういえばミシャさん、雪の杖を作るための材料を集めているって話をしていたんだった」
「ええ、そうなの」
この前雪山で採れた雪の魔鉱石や遭遇したスノー・ディアが集まったのは、ノアのおかげと言っても過言ではないだろう。
「残りの材料は?」
「あとは雪の砂を入手すれば揃うの」
「雪の砂か。初めて聞いた」
きっと寒い地域にあるアイテムなのだろう。
今現在、図書室などで調査中なのだ。
「お兄様にも聞いたの?」
「ええ。ヴィル先輩も知らないって言っていたわ」
ヴィルは王宮にある禁書を調べてくれると言っていた。
「禁書を読み解けるなんて、さすがお兄様だ」
「本当に」
ふと、ヴィルはどこを掃除しているのか、気になってしまった。
「ミシャさん、どうしたの?」
「いえ、ヴィル先輩も同じようにどこかで掃除をしているのか、と思って」
「お兄様達の学年は今、就職活動の最中だろうから、校舎にすらいないのでは?」
「あ――言われてみればそうね」
一年後の今頃はもう、ヴィルは卒業していないのだ。
なんだかまったく想像できないことなのだが。
「お兄様は国王陛下の側近に推薦されているんだ」
「すごいわ」
就職活動の期間中は実際に王宮へ行って仕事を学んでいるらしい。
国王の近くで働くなんて、ますます遠い人になってしまいそうだ。
なんだか考えるだけで、寂しい気持ちがこみ上げてしまう。
「ミシャさん?」
「あ、いえ、なんでもないわ。掃除をしましょう」
うっかりお喋りをしすぎてしまった。
サクサク掃除をしていかないと、一日では終わらないだろう。
やる気がないジェムはベンチの上に放置して、箒を握った。
せっせと清掃作業を続けていたら、一限目の終了を知らせるチャイムが鳴った。




