思いがけない大問題!?
「それで本題なのだが――」
先ほどの話について相談したかったのかと思いきや、それとは別にあったらしい。
「昨日、母から手紙が届いて話を知ったのだが、どうやら隣国ルームーンの第二王女が、ヴァイザー魔法学校に留学するようだ」
「え!? 隣国の王女様が突然どうして!?」
「これまでも異国の王族がヴァイザー魔法学校に留学することはあったらしい」
なんでもレナ殿下のお祖母様――ルームーンの王女だった先王妃もヴァイザー魔法学校に留学していたという。
「そこでお祖母様はお祖父様に出会い、恋をして、結婚したようだ」
「そうだったの」
なんでも我が国ソレーユ国とルームーン大国は代々婚姻を結び、平和を築いてきたという。
「ただ血縁関係で婚姻を結び続けると災いを招くと言われていることから、世代を空けて結婚していたようなのだが」
レナ殿下の母君であり、王妃殿下でもあるアルテミス様はルームーン大国の元王女だ。
「従兄妹婚だったのね」
「ああ、そうなんだ」
なんでも国王陛下の花嫁選びをするさい、周囲の国で戦争が続けて起こったらしい。
ソレーユ国とルームーン大国は今一度、繋がりを強くする必要があると主張し、現在の王妃殿下との結婚が決まったようだ。
「近親婚が災いを招くということは迷信だと誰もが言っていたようだが、私は女として生まれてしまった。実際に、災いが降り注いでしまったのだ」
男として生まれていたら、このようなことは思わなかったという。
「別にあなたが女性として生まれたことは、災いなんかではないわ。昔の人の言っていたことなんて、根拠のない戯れ言ばかりなんだから、気にしなくてもいいの」
「ミシャ……ありがとう」
ただ、レナ殿下がそう思わざるを得ない出来事が起きているのだという。
「ルームーン大国は第二王女と私を結婚させるつもりなのだろう」
「なっ!?」
なんでもルームーン大国はソレーユ国の王と婚姻を続けることにより、関税の緩和や輸入品の優先権など、さまざまなことが有利に働いているようだ。
「私が即位すると、それらの決まり事が撤廃される。そのため、王女殿下を送り込んできたのだろう」
なんでもその王女はうちのクラスに転入してくるらしい。
「ノアが入ってきたばかりなのに、王女殿下もやってくるというの?」
「ああ。うちのクラスはもともと、素行のよい生徒ばかりを集めたクラスで、他より落ち着いているらしい」
貴人を受け入れる体制が整っているという。
「たしかに、うちのクラスは治安がいいと思っていたわ」
そういう生徒が最初から集められていると聞いて、ノアの変化を追及せずに受け入れるクラスメイト達の人柄のよさにも納得してしまう。
「もしかしたら母自身が、ルームーンの第二王女と私を結婚させる話を持ちかけたのかもしれない」
「まさか! いくら祖国繁栄のためとはいえ、自分の子どもに茨の道を歩かせるようなことをするのかしら?」
「するだろう。母はそういうお方だ」
女性であるレナ殿下を男として育てる時点で、手段を問わないようなことを選べる人なのだろう。
「私はノアと結婚が決まって、ホッとしていたんだ」
同じように、性別を偽っている同士がいる。さらにそんな相手と結婚できる。
レナ殿下にとってノアの存在は、救いだったらしい。
「ルームーンの第二王女との結婚が決まったら、私はどうすればいい?」
いつも紳士的な態度を崩さず、気配りができて、自信に満ちているレナ殿下が初めて見せる弱い面だった。
震える手を握り、優しく声をかける。
「私が傍にいるわ。今日みたいに、話もいつでも聞くから」
「ミシャ……ありがとう」
私は直接的な解決法など提案できない。けれどもレナ殿下の心を支えることだけはできるだろう。
その後、レナ殿下はたわいもない話をしてから帰って行った。
入れ替わるように、ヴィルがやってくる。
今日は両手両足にリスがしがみついていた。相変わらず、魔法動物達に愛されているようだ。
「レナとの話は終わったのか?」
「ご存じだったのですね」
「ああ。事前にレナからミシャを借りるという申し出があったからな」
なぜ、ヴィルに許可を取るのか謎である。
そんなことはいいとして。
「何かあったのか?」
「ルームーンの第二王女が留学してくるそうで」
「やはり、行動にでてきたか」
なんでもヴィルはルームーン大国側がレナ殿下と王女殿下との婚姻を迫ることを予想していたようだ。
「二代にわたって婚姻を結んでいるというのに、まだ足りないようだな」
「味を占めてしまえば、もっともっとと望んでしまうのかもしれませんね」
現在の国王陛下と王妃殿下の婚姻のさいも、ソレーユ国の議会では揉めに揉めたようだ。
「前回は戦争があったから、結婚せざるを得ない状況だったようだが」
「押し通すのは難しいですよね」
「だからこその留学なのだろう」
先王と先王妃は留学先であるヴァイザー魔法学校で恋に落ち、結婚をした。
「ルームーン大国側は、レナと王女に大恋愛をさせるつもりなのだろう」
「はあ」
そのシナリオには無理がある。レナ殿下には婚約者であるノアがいるから。
「頭が痛くなるような問題だな」
「本当に」
これ以上、レナ殿下がトラブルに巻き込まれないよう、祈るほかなかった。




