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レナ殿下とお茶会

 雪山課外授業を経て、皆、各々成長したのか、少しだけ変わったように思える。

 エアは真剣に紳士になろうとしているのか、レナ殿下に積極的に話しかけるようになった。

 エアが貴族の仲間入りをするのか否か、まだ決めかねているらしい。どちらにせよ、レナ殿下の振る舞いから学べることは多いだろう。

 私はエアの頑張りを応援したい。

 アリーセはいいのか悪いのかわからないけれど、エアを意識しているように見える。

 エアは鈍感なのでアリーセの視線に気づいていないようだが……。

 これに関しては私が首を突っ込んでいい問題ではない。今は自然のなりゆきに任せておこう。

 ノアは取り巻き達と絡まなくなり、私やエア、アリーセとよく話すようになった。

 これまでは令嬢然とした様子でいたものの、今は完全に素の状態でいる。

 クラスメイト達にも隠さなかった。

 はじめこそ皆驚いていたようだが、今は慣れたのか、ギョッとする者達もいなくなった。

 こうして見ると、ここのクラスは落ち着いた者達が多く、レナ殿下やノアの存在もあっさり受け入れているように思える。

 そんなクラスの編成についての謎が、レナ殿下から偶然明かされることとなった。


 とある日の昼休み、珍しくレナ殿下から話があるから聞いて欲しい、とお願いされる。

 放課後、レナ殿下はアフタヌーンティーのセットを持って現れた。

 バスケットの中には焼きたてのスコーンに、あつあつの紅茶、ジャムとクロテッドクリームが入っていて、温かいうちにいただく。


「そういえば、ミシャはクロテッドクリームを先に乗せる派か? それともあとに乗せる派だろうか?」

「クロテッドクリームは先ね。あとからだと、塗りにくくなるから」

「なるほど」


 クロテッドクリームを塗ってジャムを載せ、パクリと頬張る。


「うん、おいしい!」


 レナ殿下も同じようにクロテッドクリームを塗ってからジャムを載せ、スコーンを食べた。


「たしかに、このほうが塗りやすいな」


 なんでもこれまで、レナ殿下はクロテッドクリームはあとに塗る派だったらしい。


「王妃殿下……母がクロテッドクリームは絶対にあとだ! と言って聞かなかったんだ」


 なんでもクロテッドクリームを先に塗ると、スコーンの熱で溶けて風味が台無しになるようだ。


「たしかに、言われてみればそうかも」


 レナ殿下はジャムの上にクロテッドクリームを乗せることができなくて、ずっと侍女にやってもらっていたらしい。


「母からできないことは他人がするから、何もしなくていい、と言われてね」


 その言葉に納得して、長年侍女に任せていたらしい。


「今日、先にクロテッドクリームを塗ったものを初めて食べたが、私には味なんて変わらないように思えたし、自分の好みの量でクロテッドクリームとジャムを塗ることができるから、満足感が高かったように思える」


 他人に物事を任せることの危うさを、身をもって学んだという。


「私はずっと母の言いなりで、自身の意見や考えなど口にしていなかったように思える。これからは少しずつ、自分でできることはしたい」


 王太子という身分に生まれたからには、我を通せない部分がたくさんあるのだろう。


「王宮で家庭教師相手に勉強していた頃にはなかった感情だから、自分でも少し驚いている」


 この感情を、レナ殿下はいいものではないのだろう、と言い切った。


「私は正統な後継者ではないから、母の言うとおりにしなければいけないのはわかっているのだが」


 レナ殿下が女性であることは、国王陛下はご存じでない、という話を聞いていた。

 きっと彼女はこれまで自分の感情を殺し、過ごしてきたに違いない。


「そういえばノアとの婚約にあたって、事情を知る人が増えたのよね?」

「ああ」


 ノア本人とリンデンブルク大公、それからヴィルも把握しているという。


「どうやらリンデンブルク大公は最初から知っていたらしい」


 というのも、王妃が出産したさいにレナ殿下を取り上げた女性が、リンデンブルク大公夫人の侍女だったようだ。


 なんでも元々は王妃殿下の侍女だったようだが、事情があって解雇され、リンデンブルク大公夫人のもとで仕えることになったという。


「リンデンブルク大公夫人に仕えていた侍女というのがリンデンブルク大公の愛人だったらしく、その、事情を話してしまったらしい」

「だったらそれを知ったリンデンブルク大公が、ノアを女性として育てて結婚させる、という計画を思いついたのかしら?」

「おそらくだが、そうなのだろう」 


 ちなみにその侍女はリンデンブルク大公夫人の不興を買い、追いだされてしまったらしい。どこかへ逃げたらしいが、誰も所在を掴めていないという。


「もう二十年も前の話だから、生きているかどうかもわからない」

「そうだったのね」


 ちなみにヴィルはなぜか最初からレナ殿下が女性だと見抜いていたらしい。


「彼は妙に勘が鋭い男で、幼少期から私が女だとわかっていたようだ」


 ヴィルは嘘もやすやすと見抜いてしまいそう。

 彼の前では自分自身を偽ることは止めておいたほうがよさそうだ。

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