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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・幕間 エアの誕生パーティーを開こう!

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招待

 ある日の移動教室の最中、ノアが私のもとへやってくる。


「ミシャさん、ちょっといい?」

「どうかしたの?」

「少しお願いがあって」


 ノアがしおらしくお願いしてくるなんて珍しい。

 授業までまだ時間があるので、廊下の窓際で話を聞く。


「それで?」

「彼の誕生日なんだけれど、レナ様を誘ってもいい?」

「別にいいけれど」


 一応、アリーセにも了承を得ているようだ。


「でも、いいの?」

「いいって何が?」

「誕生パーティー中、ずっと猫かぶりしていなければいけなくなるけれど」


 普段、ノアは女王然とした様子でいるが、レナ殿下の前では愛らしい子猫のような振る舞いを続けているのだ。


「たぶんだけれど、僕の本性について、レナ様は気づいていると思う。だから別に、猫被りをしていない僕を見せてもいいのかな」


 レナ殿下だけでなく、ヴィルも気づいているだろう、とノアは言い切った。


「ヴィル先輩は、そうね……。察していると思うわ」


 ノアに対する態度が、呆れを滲ませているように見えたのだ。


「ミシャさんも気づいていたんだ」

「ええ。本人に聞いたわけではないから、勝手な解釈だけれど」


 ノアは頭を抱え、深い深いため息をついていた。


「いっそのこと、ヴィル先輩も招待してみる?」

「え!? そ、それは」

「嫌?」

「い、嫌じゃないけれど、なんだか緊張する」

「いい機会だと思うけれど」


 ヴィルとノアは、これまで一度もお互いに本音で話していないのだろう。


「さらけだしたら、楽になると思うけれど」


 会話を交わしただけで、眠れなくなるほど緊張することもなくなるはずだ。


「兄弟っていうのは、もっと気楽な存在だと考えていたわ」

「気楽なものか! お兄様はとても頭がよくて、かっこよくて、礼儀作法も完璧で……! 僕にとっては遠い遠い存在なんだ」

「そう。だったら、ずっとこのままなのね? 遠い存在のままでいいんだ」


 ノアは小さな声で「嫌だ」と答えた。

 心の奥底では、ヴィルと仲良くなりたいと思っていたのだろう。


「わかったわ。じゃあ、ノアさんがレナ殿下を誘って、私はヴィル先輩を誘うから」


 ヴィルに関しては、アリーセの許可を得てからになるが、ノアは了承してくれた。


「レナ様だけでなく、お兄様まで参加することになったら、僕の心臓は保たないかもしれない。パーティーの間、ミシャさんの手を握っていてもいい?」

「勘違いされそうだから、お断りするわ」

「そんな!」


 ここでチャイムが鳴る。ノアと一緒に急いで教室へ飛び込んだのだった。


 ◇◇◇


 アリーセの許可がでたので、ヴィルも誘うこととなった。ヴィルは喜んで参加してくれるという。ノアが誘ったレナ殿下も、誘いに応じてくれたようだ。

 エアが物怖じしないように、ドレスコードは制服にしておいた。

 その辺の配慮も抜かりない。

 エアの誕生日当日は休日である。エアには温室での仕事を手伝ってほしい、とお願いしてみた。

 人がいい彼は二つ返事で了承してくれたのだ。


 ヴィルは料理の補佐をしたいと名乗りでてくれた。

 下ごしらえからやることがたくさんあるので、非常に助かる。

 また、料理に使う食材はレナ殿下が用意してくれるというので、料理のクオリティがぐっと上がりそうだ。


 そんなわけで、前日からヴィルと一緒に誕生パーティーの料理の支度を始める。

 ヴィルはエプロンを着用し、調理用の白い帽子を被っている。完璧な調理人の格好で挑むようだ。


「帽子まで用意したのですね」

「調理中、髪の毛が入ったら大変だからな」

「たしかに」


 普段、私は髪を結ぶ程度だが、今日はヴィルに倣って前髪を上げて三角巾を結んでみた。

 そんな私をヴィルはじっと見つめ、思いがけないことを言ってくる。


「ミシャ、三角巾を被った姿も美しいな」


 審美眼は確かか、と真顔で聞きたくなったものの、ヴィルの感覚を否定してはいけないと思って半笑いだけ返しておく。


 今日は口元にも布を巻いて、飛沫が飛び散らないようにしておく。

 三角巾に布を口に当てた姿となった私は不審者にしか見えないが、ヴィルのほうは神職者のような神聖な雰囲気に見えるから不思議であった。

 そんなことはさておいて、調理に取りかかろう。


「ミシャ、今日は何を作る?」

「二種のパイ生地を作ります」


 一種類は定番の折りパイ。もう一種類は練りパイだ。


「折りパイはよく目にする普通のパイ生地だろうが、練りパイというのは初めて聞く」

「折りパイはバターを生地に挟んで伸ばしていく物ですが、練りパイはバターを生地に混ぜて作るんです」


 今回、パイ生地作りが初めてだというヴィルには、練りパイを担当してもらおう。

 私は折りパイを作りながら、ヴィルに練りパイ作りを伝授する。


「練りパイのほうは甘くない軽食セイボリー・ペストリーなので、砂糖なしで作ります」


 材料は小麦粉にバター、塩、冷水。

 冷水は私が魔法で作った雪を溶かしたものを使ってもらう。


「まずはボウルに小麦粉と塩、バターを入れて、調理用カードを使って、バターが細かくなるまで切るように混ぜてください」 


 次に冷水を少しずつ入れながら生地を練っていくのだ。

 魔法学校の最上階にある特別な食堂で料理を習っているヴィルは、少しの説明で理解し、調理を進めてくれる。

 私も折りパイの生地をどんどん作っていった。あっという間に折りパイと練りパイの生地が完成する。

 あとは生地を一晩休ませておいて、明日仕上げをするばかりだった。


 そのあとも、スープや肉、魚料理の下ごしらえなどを行い、準備は完璧なものとなった。

 あとは明日を迎えるばかりである。

 

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