お買い物をしよう
商店街の周辺には、観光客向けにさまざまな軽食が販売されている。
うっかりそこに足を踏み入れてしまった私達は、食べ歩きを始めてしまった。
「ミシャさん、あのお店は何を売っているの?」
ノアが興味津々な様子で指を差すのは、チーズソースがかかった団子状のパスタである。
コーンで作った生地を揚げて作ったお皿に装われ、完食後は器も味わえるという斬新すぎる料理だ。
説明し終えると、ノアは元気よく「食べたい!!」と言った。
アリーセも言葉にはださないものの、瞳がキラキラ輝いている。
私もだんだん食べたくなってきたので、買いにいくことにした。
ひとり分でもけっこう量があるので、三人で分け合うことに決める。
途中、銀行省でお金を細かくしてきたノアが、支払いをしてくれた。
「あとで支払うわ」
「別にいらない。ミシャさんにはたくさん借りがあるから」
「いいのに」
アリーセは「あとで払いますわ」と宣言し、ノアはそれを聞き入れる。
すぐにニョッキは提供された。
「早く食べないと、器が崩壊してしまうからね」
店主の注意に頷きつつ、人の往来の邪魔にならないところまで移動していただく。
ほかほかと湯気が上がるニョッキを串で刺し頬張った。
生地はもっちもちで、濃厚なチーズソースとよく絡んでおいしい。
「これ、最高!!」
「本当、とってもおいしいです!!」
普段、美食の限りを尽くしているであろうノアとアリーセも絶賛していた。
最後に器はノアが食べる。
「何これ、器まで食べられるなんて不思議」
サクサクと揚がった部分と、ソースでしんなりした部分があって、おいしかったと言う。
次は行列に興味を示したようで、並んで食べたいようだ。
「こんなに多くの人達が時間を無駄にして並んでいるなんて、おいしいに決まっている」
行列=おいしいとは言えないのだが、こうして並ぶのも何かの経験として生かされるだろう。そう思って止めなかった。
そこで販売されているのは、タラのフリッターのようだ。
十五分ほど並んでゲットできた。
揚げたてあつあつをいただく。
「…………嘘!!」
ノアは一口食べた途端に、呆然とする。
おいしくなかったのだろうか。そう思って食べたら、普通においしかった。
「こんなしょっぱいタラなんて初めて! おいしいんだけど!」
干しタラを塩抜きしたものを揚げた一品なのだろう。
あえて塩抜きを甘くしているようで、塩っけが強い。
それがまた、サクサクの衣と相まっておいしいのだ。
ノアのお口には合ったようだが、アリーセにはしょっぱかったようだ。
きっとこれは男子受けする食べ物なのだろう。
お口直しに食べたのは、甘いガレット。
そば粉で作った生地に、生クリームと甘酸っぱいベリーソースを挟んだ一品だ。
とにかく生地がサクサクもっちりで香ばしく、中の生クリームやソースもくどくなくて、さっぱりおいしく食べられるスイーツだった。
お腹いっぱいになったところで、私達は我に返った。
「目的を忘れていましたわ」
「ミシャさんがあれこれ紹介してくれるから」
「行く先々の料理に興味を持っていたのは私だっけ?」
よくわからなかったが、食べた物がおいしかったのは確かである。
商店街をどんどん横切っていたため、目的にしていた骨董店からずいぶんと遠ざかっていたようだ。
食欲というのは、どんな欲求よりも優先されてしまうのだろう。
「じゃあ、骨董店がある辺りまで戻って――待って」
広場のほうに天幕が立っているのが見えた。看板には、〝骨董市〟と書かれている。
「骨董市ですって。何かいい品物があるかもしれないわ」
「いいね。見にいこうか」
「ええ!」
エアの誕生日の贈り物を求めて、骨董市に立ち寄る。
そこには古い魔導具や、魔法書、古文書などなど、見ているだけでも心が躍るような品々が販売されていた。
お値段もピンからキリまで。私達のお小遣いでも手が届きそうな品物がたくさんあった。
ノアは空にらくがきができる魔法のペンを購入したようだ。
「たぶん、こういうしょうもない品が一番喜ぶんだよ」
「勉強になるわ」
アリーセはアイテムが生る魔法の苗を選んだようだ。
「わたくしもほしいくらいのお品です」
最後に、私はゴーレムの素、という作成キットみたいなものを買った。
「この前ノアさんが召喚したゴーレムがかっこよかったから、エアも喜ぶと思うの」
「いいセンスだ。きっと大喜びするだろう」
「エアの嬉しそうな顔が浮かびますわ」
骨董市の規模が大きく、迷うのではないかと思っていた。
けれどもノアが贈り物の方向性を示してくれたおかげで、あっさり決まった。
食べ歩きの時間のほうが明らかに長かっただろう。
お腹もいっぱいになったし、すてきな贈り物も買えたし。
満足気分で私達は帰ったのだった。