街へ
無事、外出許可が貰えたので、皆で誕生パーティーの贈り物を買いに行く。
街に向かう馬車もしっかり予約していたので、落ち合ったアリーセやノアと共に乗って出かける。
今日は荷物持ちとしてジェムを連れてきたので、大きな物も買えるのだ。
馬車の中で、アリーセから相談を持ちかけられる。
「エアくらいの年頃の男性は、何をあげたら喜ぶのでしょうか?」
「難しいわよねえ。ノアはどう思う?」
「な、なんで僕に聞くんだ! わかるわけがないだろう」
「そうよね」
ノアを男子認定し、うっかり聞いてしまった。アリーセはノアが男だと知らないので、注意しなければならないのだ。
「男子が欲しがる物について、僕はあまりよく知らないけれど、タイとかカフスボタンみたいな実用的な品よりは、個性的で面白い品物のほうが喜ぶと思う」
ノアはわかるわけがないとか言いながら、参考になりそうな意見を教えてくれた。
「たしかに、エアは変なお菓子を食べていたわね。ああいうのが好きだとしたら、ノアの言うとおり、意外性のある面白みのある物をあげたら喜びそうだわ」
雑貨店に行くつもりだったが、それよりも骨董店のほうがいいかもしれない。
馬車から降りると、私達は骨董店を目指したのだった。
「信じがたいくらい人通りが多いな」
普段、ノアは街中を歩くことはないようで、うんざりしながらぼやく。
「社交シーズンはこんなもんよ」
ドレスやフロックコートをまとう人々は手ぶらで歩き、あとから続く使用人達が荷物を持ち歩いている。
中にはドレスや帽子が入っているであろう箱を三つも四つも重ねて運ぶ使用人の姿もあった。
そんな様子も、社交期の風物詩となっているらしい。
「買い物は商人を家に呼んでするものだろうが」
「ノアさん、それは一部の特権階級に生まれた人だけができるお買い物なのよ」
「そうなのか?」
「嘘は言わないわ」
特に、社交期ともなれば商人は多忙を極める。
この期間中に商人を呼べる人達は、真なるお金持ちなのだろう。
「嘘ではありませんわ。わたくしも気になって魔法学校で親しくしてる方に聞いたところ、お買い物は外に買いに行くのが普通だと言うのです」
「うわ、そうだったんだ。知らなかった」
アリーセの話を聞いて、ノアはようやく信じたようだ。
「でも、いくら訪問販売が難しくても、屋敷に買った品くらい届けられるだろうに」
「ああ、あれはああやって運ぶことによって、裕福さをアピールしているのよ」
「なんのために?」
「さあ? 見栄?」
「バッカじゃな……愚鈍な行為だこと!」
ノアがきれいな言葉遣いに直すと、アリーセが満足げな表情でこくこく頷いていた。
きちんと学習するノアは賢い。
バカの代わりに愚鈍を使うのはどうかと思うけれど。
「みんな忙しなく歩き回って。買い物なんて、誰かに頼んだら苦労はないのに」
そんなノアの疑問に、同じような環境で育ったアリーセが言葉を返す。
「わたくしもそう思っていたのですが、つい先日、ミシャ達と街で買い物をしてから、こうして自分の足で歩き回って欲しい品物を探すのもいいと思うようになりました」
「ふうん」
ノアが買い物を気に入るかは、今日の私達次第だ、と気合いを入れつつも、合う合わないがあるので、楽しいことだ! と押しつけるようなことはしたくないなと思った。
ジェムは思っていたよりも人が多く、道行く人々に興味を持たれてしまうからか、姿消しの魔法を使って私にだけ可視化できるようにしていた。
「ミシャさん、何あれ!?」
ノアが私の服の袖を引きつつ指を差したのは、揚げ菓子の屋台である。
「お菓子を売っているお店よ。食べてみる?」
「少しだけ」
偶然にも揚げたてを売ってもらえた。
ノアが金貨を差しだそうとしたが、制止をして代わりに支払う。
「自分で払うのに」
「こういう小さなお店は、金貨で支払いをされると、おつりがないから断られるのよ」
「そうだったんだ」
ノアだけでなく、アリーセも「知りませんでしたわ」と言っていた。
なんだか引率の先生をしている気分になる。
お菓子は砂糖がまぶされたドーナツみたいなものと表現すればいいのか。串に刺してからいただく。
親切な店主は串を三本、刺して渡してくれた。
「せっかくだから、いただきましょう」
「ここで!?」
「ええ。みんな、そうやって食べているわよ」
ノアは周囲の人々を確認し、立ち食いしている様子に驚愕していた。
「立って食べていいのは、立食式のパーティーだけで、それ以外ははしたない行為だって習ったのに、みんな普通に食べてる」
「そうなのよ。冷めないうちにいただきましょう」
私が平然とした様子で食べているのを見て、アリーセもぱくりと食べる。
「まあ! このお菓子、表面がカリカリしていて、中はふんわり。優しい甘さがたまりませんわ!」
アリーセの感想を聞いて、ノアも我慢できなくなったのか食べてくれた。
「うわ、本当だ。おいしい」
皆で揚げ菓子を堪能したのだった。




