誕生日会について
エアのサプライズ誕生パーティーを開くため、アリーセと一緒に計画を立てていたのだが、そこにノアが加わることとなった。
なんでも雪山課外授業で結界魔法を教えたことをきっかけに、アリーセと仲良くなったらしい。
誕生パーティーは三人だけでやろう! と言っていたので、ノアも招いたことは意外だった。
アリーセの交友関係が広がるのはいいことなので、私もノアの参加を歓迎する。
「僕が参加するからには、ゴージャスで煌びやかなパーティーにするつもりだよ」
「は、はあ」
「会場はどこを押さえたの?」
「まだ決めていないわ。寮の部屋を個人的に借りるのは難しいから、その辺の広場にシートを広げてやろうかな、と考えていたんだけれど」
「は!?」
ノアは信じられないとばかりに目を見開き、私に詰め寄る。
「一月に外で誕生日会って、バカじゃないの!?」
ぐうの音も出ないほどの正論である。
何も言えないでいたら、アリーセがノアに物申した。
「ノアさん、バカは言い過ぎではなくって? もっと別の優しい言い回しにしてくださいませ」
「それはまあ、たしかに」
ノアはゴホンゴホン! と咳払いし、言い直してくれた。
「一月に外でパーティーをするだなんて、愚鈍にもほどがあるだろうが!」
なんだろうか、バカとそう変わらない気がするのは。
まあ、いい。
ひとまず外でのパーティーはない、ということだけはわかった。
ノアとアリーセはこれまで会釈をするだけの関係だったようだが、すぐに打ち解けてくれた。
ふたりともストレートな物言いをするタイプだが、お互いに敬意を示している部分があるようで、言い合うことはあっても険悪にはならない。
意外と相性はいいようだった。
そんなことはさておいて。
会場問題について、なかなかいい案が浮かばない。
「わたくし達だけでクラブを作ったら、クラブ舎のひとつを貸していただけたでしょうけれど」
「作るとしたら、お誕生日クラブ?」
「あら、すてきだと思います!」
「そんなの却下されるに決まっている」
アリーセと私が脱線しようとしたら、ノアが軌道修正してくれる。
頼りになる新メンバーである。
どこか温かくて、他の生徒の邪魔にならないような場所はあるのだろうか。
考えた結果、とある場所がいいのではないか、と閃いた。
「ガーデン・プラントにある、オレンジェリーはどう?」
さすがは貴族と言うべきか、オレンジェリーと言っただけで、そこがどこか伝わった。
オレンジェリーというのは、柑橘類専用の温室である。
今のシーズンはオレンジの花が咲くので、きっときれいだろう。
休憩用の机や椅子もあるので、パーティーをする場所としてうってつけというわけだ。
「オレンジェリーでパーティーなんて、新鮮ですわ」
「でもガーデン・プラントって、許可がないと入れないんじゃないのか?」
「あ、そうそう。ホイップ先生の許しがないと、ガーデン・プラントに入れないし、オレンジェリーでパーティーもできないわ」
お願いしたら、叶えてくれるだろうか。
ただ、私とノアは雪山課外授業で騒動を起こした前科者である。だめだ、と言われる可能性が高い。
「可能性に賭けて、聞きに行きましょう」
放課後――帰宅した振りをしてノアやアリーセと合流し、ホイップ先生の研究室に向かったのだった。
やってきた私達を見て、ホイップ先生は不思議そうな表情を浮かべる。
「あら、珍しい組み合わせねえ。何か用事かしらあ?」
「実はホイップ先生にお願いがありまして」
小首を傾げるホイップ先生に、オランジェリーでエアの誕生パーティーをしたい、とお願いしてみる。
「お友達のために誕生パーティーを開くなんて、すてきねえ。いいわ、と言いたいところだけれど、ひとつ課題をだそうかしら~?」
それは、ホイップ先生の授業で使った実験道具の洗浄であった。
「今の季節は手がかじかむのよねえ。お願いできる?」
皆で顔を見合わせ、同時に頷いたのだった。
そんなわけで、井戸の周りで洗浄作業を行う。
「ううう、寒い!」
「思っていた以上に冷えますのね」
「そう?」
雪国で氷みたいに冷たい水に毎日触れていたので、王都の水はまだ温いほうだと思ってしまう。
けれども普段、水仕事をしないアリーセやノアには、特別冷たく感じてしまうのかもしれない。
なんとか洗浄を終わらせると、ホイップ先生はガーデン・プラントの入場とオランジェリーの使用許可が書かれた書類を作成してくれた。
「よくできました~。当日は、騒ぎすぎないのよお」
「はい! ありがとうございます!」
ひとまず会場は確保できたので、ホッと胸をなで下ろした。
続いての問題は、誕生日ケーキやごちそうである。
「エアは私の料理が好きって言ってくれたから、ごちそうを担当するわ」
「だったら僕はケーキを手配しておこう」
なんでもリンデンブルク家の菓子職人に、とっておきのケーキを頼んでくれるようだ。
「わたくしはテーブルウェアを用意しますわ」
テーブルウェアというのは、食卓を彩るカトラリー類のことである。
どういったお皿を使うか、お花を活けるかというのはセンスが必要なので、アリーセがやってくれるのはありがたい。
「誕生日の贈り物は、今度の休日に買いにいきましょう」
「いいね」
「楽しみですわ」
エアの誕生パーティーの計画は、着実に進んでいった。




