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外は吹雪

 スノー・ディアの骸は恐ろしいので、雪を被せて固めておく。これで、少しは落ち着けるだろう。


 外の吹雪はまだ止みそうにない。学校側が私達の不在に気づいても、この天候では捜索は不可能だ。


「まだここで待機しておく必要がありそうね」


 魔法で作った雪をジェムに固めてもらい、ノアが捻った足に当ててハンカチを巻く。


「ノアさん、大丈夫?」

「うん。雪が冷たくて、少し楽になった」

「よかった」


 魔法薬のストックをジェムに預けておけばよかった、と今日ほど思った日はないだろう。


「そういえば、ジェムにいろいろ預けていたわね」


 何か使える物はないだろうか、と呟くと、ジェムが何か取りだしてくれた。


「え、何……あ!!!!」

「ど、どうしたの?」

「これ!!」


 ジェムがだしてくれた紙の束は、魔法巻物である。


「魔法巻物? 転移の?」

「いいえ! これ、ヴィル先輩を召喚できるものなの!」

「なっ!?」


 以前、貰ってすぐにジェムに預けていたのを、すっかり忘れていた。


「ヴィル先輩だったら、私達を助けてくれるかもしれないわ」

「今すぐ呼ぼう」


 たぶん、今は授業中だが、背に腹はかえられない。

 すぐに魔法巻物を破く。すると、地面に魔法陣が浮かび上がり、そこから人影が浮かび上がった。


「なんだ?」


 気の抜けたヴィルの声に、エプロンをかけた姿――。

 それが確認できると、私とノアはヴィルに抱きついた。


「ヴィル先輩!!」

「お兄様!!」

「どうした? ここはどこだ?」


 緊張の糸が切れた私達は、安堵から涙してしまった。

 なんでもヴィルは昼休み中だったようで、料理をしようとしていたところだったらしい。

 ノアがしゃくり上げながらも、事情を話してくれた。


「興奮したエルクのソリに乗っていて、途中で暴走して、崖のほうに、落ちてしまったんだ。それを、ミシャさんが助けてくれて……!」

「そうだったのか」

「途中で雪崩にも襲われて、それはジェムが助けてくれて、それで、ここに逃げ込んだら、魔物の巣だったようで」


 毒の土で作ったゴーレムのおかげで、なんとか倒すことができたのだと、ノアは事情を話す。


「毒の土とは?」

「そ、その前に、ノアさんがケガをしているんです! 回復魔法で治してもらえますか!?」

「なんだと!?」


 ノアはケガについて隠したがっていたようだが、私はしっかり報告しておく。

 患部を確認したあと、ヴィルは回復魔法で足を治してくれた。


「――再生せよ、回復ヒール


 真っ赤になっていた腫れがあっという間に引いていく。

 痛みで眉間に皺を寄せていたノアの表情も穏やかになっていった。


「お兄様、ありがとうございます」

「いや、これは気休め程度だ。帰ったらきちんと治療を受けたほうがいいだろう」

「はい、わかりました」


 ヴィルは通信魔法を展開させ、ホイップ先生と連絡を繋ぐ。

 氷窟の壁に、ホイップ先生の顔が映った。


『誰!? 今、とーーーーっても忙しいのに!』

「私だ」

『どこの〝私〟よお! 遊んでいる暇はないの~~!!』


 慌てた様子でいるホイップ先生を、初めて見たかもしれない。


「貴殿のクラスの生徒である、ミシャ・フォン・リチュオルとノア・フォン・リンデンブルクを保護した」

『なっ……!? ちょっと、ふたりとも、どこにいるのよお! 二頭ともエルクだけ戻ってきて、死ぬほど驚いたわ!』


 どうやら雪崩で別れ別れになったエルクは、無事、戻っていたらしい。ホッと胸をなで下ろす。


「エルクの暴走で崖から落ちたらしい」

『な、なんてことなのお!?』

「これからドラゴンに乗ってふたりを麓まで連れていくから、しばし待機していてほしい」

『連れて行くって、この天候では無理よお』

「私のドラゴンを甘くみないでいただきたい」

『ちょっ――』


 ヴィルはここで通信を切り、ノアをおんぶするためにしゃがみ込む。


「ノア、おぶされ」

「いいえ、お兄様におんぶしてもらうわけにはいきません!」

「いいから」


 私はノアの肩をぽんぽん叩き、お言葉に甘えるように促す。

 ノアは諦めたのか、ヴィルにおんぶしてもらっていた。


 凍った川の上にヴィルの使い魔である聖竜セイクリッドを呼び、背中に跨がる。

 セイクリッドは魔法で吹雪を防ぎ、私達を安全に麓まで連れていってくれた。


 ホイップ先生は外で待機していて、私達が到着すると駆け寄ってくる。


「あなた達、どこに行っていたのよお!」

「ごめんなさい」

「心配をかけました」


 ホイップ先生は私達を抱きしめ、「無事でよかったわあ」と耳元で呟いたのだった。


 そんなわけで、無事、私とノアは救助された。

 調査によってエルクの暴走が明らかとなり、飼育員から正式に謝罪された。

 これまで以上にエルクの様子に注視し、大切にすることを約束し、今回の件は水に流すことにしたのだった。


 こうして終わりを告げた雪山課外授業だったが、大変だった代わりにノアと仲良くなれた。

 二度としたくないが、いい経験はできたと思う。

 

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