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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・第三章 雪山課外授業にて

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大ピンチ!

 自由の身となったノアのエルクは、そのまま林間コースを走って逃げてしまった。

 あの様子だと、仮契約の魔法は不完全だったのかもしれない。

 ノアの悲鳴が聞こえる。


「うわああああ!!」


 ノアのソリは一瞬でコースアウトし、崖のほうへ落ちていった。

 エルクがいなくなったソリは制御不能となっている。ノアひとりでなんとかできるような状況ではなかった。

 すぐさま私は手綱を強く引いて、崖に行くように導いた。

 私のエルクは、突然の方向変換に驚くこともなく、従ってくれた。

 崖のほうへ下ると、五メートルくらい先にノアのソリが確認できた。叫び声も聞こえる。

 整備なんてされていない崖には不揃いな木々が生えたり、岩が突きでたりと危険だった。

 私のソリもガタン、と大きく音を立てて揺れる。


「うっ!!」


 シートベルトなんてないので、気を抜いていたら体が放りだされそうになる。頼りになるのは手綱とソリの縁にある持ち手だけだ。

 背後に乗っていたジェムは状況を察したのか、縄状になって私の体をソリと繋いでくれた。


 ソリは大きな岩に乗り上げ、飛び上がった。奥歯をぎゅっと噛みしめ、衝撃に備える。

 ガコン! と大きな音を立てて着地した。ジェムが私の体を繋いでいなければ、外に放りだされていただろう。

 私は無事だったが、荷台に繋げていたトランクを落としてしまった。

 このような状況では、命だけあれば儲けものである。

 吹雪のせいで、視界が悪い。ノアの姿も見えなくなったが、まっすぐ進んでいることを信じるのみである。

 舌を噛まないように、奥歯をぎゅっと噛みしめた。

 どのくらい下ったのだろうか。わからなかったが、やっとのことでノアのソリがすぐ前方に見えてくる。もう少し加速したら追いつきそうだ。その前に、ノアの名前を叫ぶ。


「ノアーーーーーー!!」

「ミ、ミシャさん!?」


 ノアは驚いた表情で私を振り返る。振り落とされていなくてよかった。

 加速するようエルクに命じると、スピードアップしてくれた。

 ついに、ノアのソリに並ぶ。


「ノアさん、手を!!」

「ミシャさん!!」


 お互いに手を伸ばすが、少し触れただけで、ノアのソリが岩に乗り上げたようだ。


「あ――!!」


 ノアとソリは大きく傾き、真っ逆さまになる。

 私はすぐさまジェムに命じた。


「ジェム、触手を使ってノアを掴まえて!!」


 すぐさまジェムは動き、視界が悪い中触手を伸ばして、ノアの体にぐるぐる巻き付ける。

 そして、私達のソリへと引き寄せた。


「うっ!!」


 ジェムがクッションになったので、ノアはケガなく着地できたようだ。

 ホッとしたのもつかの間のこと。

 エルクの体がガクンと傾き、転がってしまう。

 このままではエルクの負担になってしまう。一瞬で判断し、手綱を手放し、ソリと繋がったベルトを外した。


 ソリから離されたエルクは、上手く受け身を取って止まっていた。

 一方、私達が乗ったソリは速度をそのままに崖を下っていく。


「うわあああああ!!」

「止まってええええ!!」


 ソリはどんどん加速し、凍った川が見えてくる。

 このままだと、硬い氷に激突してしまうだろう。

 イチかバチか、私は賭けることにした。


「ジェム、網を張って、ソリを止めて!!」


 ジェムは剛速球のように飛んでいき、大きな網となって木と木の間に張り付く。

 張り巡らされた網の中心に、ソリは突っ込む形となった。


「うっ!!」

「わあ!!」


 網となったジェムはソリをはじき返さず、優しく包み込んでくれた。

 無事、止まることができたようだ。


 今、どんな状況かわからない。けれども自分自身を確認する前に、ノアに声をかけた。


「ノアさん、平気?」

「な、なんとか」

「ケガは?」

「ない。ミシャさんは?」

「大丈夫」


 体はどこも痛くないし、異常も感じない。

 どうやら私達は助かったようだ。


「ジェム、ありがとう。その、下ろしてくれると助かるのだけれど」


 そうお願いすると、ジェムは網をゆっくり地上へ降ろし、解いてくれた。

 先ほど解放したエルクもやってきて、心配そうに見つめてくる。


「ありがとう。あなた、とっても勇敢だったわ」


 エルクの顎の下を撫でつつ感謝の気持ちを伝えると、瞳を細めていた。


「ミシャさん」

「ん?」


 振り返った先にいたのは、ばつの悪そうな表情で佇むノアだった。


「僕と契約したエルクの異変について訴えてくれたのに、聞き入れなくってごめんなさい」

「ええ……。しっかり反省してほしいわ」


 しゅん、と肩を落とすノアの背中をばん! と力いっぱい叩く。

 ノアは驚いた表情で私を見ていた。


「ノアさんも、私の背中を叩いて。気合いを入れたいの」

「え、でも」

「いいから、お願い」

「わかった」


 ノアは力いっぱい背中を叩いてくれた。

 思っていた以上に痛かったものの、気合いは入った。


「これからどうしようか考えましょう」


 ノアにも気合いが注入されたのか、瞳に光が宿る。強い眼差しを向けながら頷いてくれた。

 ひとまず、吹雪が酷くなってきたので移動しよう。


「え、移動するの? ここを登るのではなく?」

「ええ。このエルクは小柄だから、私達ふたりを乗せて登ることは無理よ」


 ソリを引けたとしても、この吹雪の中で動くのは危険だ。

 崖を少し下っていくと、川のほとりに行き着く。

 その近くに洞窟があったので、そこでしばし大人しくしていたほうがいいだろう。


「ノアさん、行きま――」


 大人しかったエルクが突然跳ね上がり、慌てた様子で崖を登っていく。

 いったい何が、と思ったのと同時に、雪が津波のように迫ってきていることに気づいた。

 あれは雪崩だ。

 その場にしゃがみ込んでいたノアに手を伸ばそうとしたが、間に合わない。

 このままでは、私も飲み込まれる。


「木に掴まって!!」


 そう叫ぶのが精一杯であった。

 あっという間に雪の波に飲み込まれ――――。

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