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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・第三章 雪山課外授業にて

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雪山課外授業、最終日

 朝、私は驚愕することとなる。


「ノアさん、もしかして、眠れなかった!?」

「ごめん」


 昨晩はぐっすり眠っているように見えたが、夜中に目が覚めてしまったらしい。


「ミシャさんがガサゴソしているときは、その雑音を子守歌に眠れたんだと思う」

「ざ、雑音って……」

「でも、ミシャさんが寝静まった途端に目を覚ましてしまって」


 おそらくノアは、人の気配を身近に感じたほうが眠れるタイプなのだろう。


「だったら、手を繋いで眠ったらよかったわね」

「それはさすがにできない。長時間手を繋いで眠るなんて、ミシャさんに負担だっただろうし」

「私は平気よ。寝台をくっつけたら、横になれるし」

「なっ、どうしてそこまでできるの!?」


 なぜと聞かれても、困っている友達がいたら助けたいだけだ。

 そう訴えても、ノアは理解できないとばかりの表情を浮かべる。


「そんなに親切にされても、何も返せないのに」

「返す必要はないわ。私達、お友達じゃない」


 友達の関係は平等で、何か貸しができたとしても、それはすぐに返す必要はない。生きていくなかで相手が困っているときに、手を差し伸べたらいいだけだ。


「ミシャさんが困っている場面なんて見たことがない」

「あるわよ、たくさん」

「あっても、その万能な精霊の使い魔が解決してしまうし」

「それは――」


 ジェムがどやっと胸を張る。今だけは存在感を消していてほしかったのだが。


「ミシャさんが困っていても、僕やマオルヴルフでは解決なんてできないんだ」

「そんなことないわ。昨日の浴槽や雪かまくら作りだって、やってくれたじゃない」

「ミシャさんの使い魔もきっとできる!」


 ジェムはできる! とばかりに触手を伸ばして丸を作っていた。

 本当にお願いだから、大人しくしていてほしい。


「対等じゃないのに、友達なんて言えない!」


 ノアはそう言って、部屋を飛びだしてしまった。

 追いかけようかと思ったが、きっと今、私が何を言っても聞き入れてもらえないだろう。

 ノアには冷静になる時間が必要だ。

 少しだけひとりにさせてあげよう。


 食堂にノアの姿はなかった。どこかで何か食べていたらいいのだが……。

 朝食後、集合の時間まで、休憩用のフロアで時間を潰す。

 すると、背後から声がかかった。


「ミシャ、どうしたんだ?」


 振り返った先にいたのはレナ殿下だった。


「あ――いえ、なんでもないわ」

「なんでもなくはないだろう。食堂でも、心あらずな様子だったから」


 まさか、食堂にいたときから見られていたなんて。

 ここまで追及されてしまったら、隠すわけにはいかない。

 ノアとのことについて、正直に打ち明けた。


「なるほど。ノアとケンカしてしまったんだな」

「ええ。私が世話を焼きすぎて、気にしちゃったみたい」

「ノアは律儀だからな」


 なんでもノアにとって、私は初めてのお友達だったらしい。そのため、付き合い方がわからず、戸惑っているのだろう、とレナ殿下は言ってくれた。


「自分の無力さを痛感するのと同時に、使い魔の件でコンプレックスも感じていて、感情が爆発してしまったのだろう」

「難しいお年頃なのね」

「ミシャも同じ年齢だ」

「そ、そうだったわね」


 少し放っておいたほうがいい、とレナ殿下は助言してくれた。


「冷静になれば、自分が間違っていたと反省するだろう。必ず謝ってくるはずだから、しばし見守っていてほしい」

「わかったわ」


 幸いにも、今日の授業は魔法生物が引くソリに乗って下山するだけだ。そのあとは解散となるので、ノアも寮でぐっすり眠れるだろう。

 仲直りできたら、月末に予定しているエアの誕生日パーティーに誘ってみようか。

 人数が多いほうが、きっと楽しいだろうから。


 外にはトナカイに似た魔法生物、エルクの群れがあった。

 生徒達が乗るソリに繋げられ、スキーの林間コースみたいな道のりを下っていくらしい。

 ここで使うのは、魔法生物と一時的な契約を結ぶ仮契約の魔法だ。

 授業では小鳥やカエルなど小動物と短い契約を結んでいたが、エルクのような大型の魔法生物とやるのは初めてである。

 エルクは大人しく、従順的な性格のようで、安全にふもとまで連れて行ってくれるようだ。

 私のところに連れてこられたエルクは、小柄で控えめな性格の子のようだ。仮契約の魔法にも応じてくれた。

 エルクは顎の下辺りを撫でるのが好きなので、よしよししてあげると、心地よさそうに目を細めていた。

 ノアも無事、仮契約の魔法が済んだようで、ソリに繋いでいる。

 私は実家でソリによく乗っていたので繋ぐことができるが、ここでのやり方があると思ったので、エルクの飼育員に任せることにした。


 今回、ペアとは別々にソリに乗るのだが、だいたい同時にスタートするようだ。

 一時間ほどで、私達の番となる。


「――あら?」


 ノアが連れているエルクの鼻息が、少し荒く見えた。

 近くにいたエルクの飼育員に声をかける。


「あの、前にいるエルクですが、少し落ち着きがないように見えるのですが」

「ああ、大丈夫。あの子は少し暴れん坊でね。早く走りたくって興奮しているだけだろう」


 暴れん坊で興奮……あやしい個体である。

 ただ、飼育員が大丈夫だと言っているので、これまで暴走などはしなかったのだろう。

 しかし、なんだか引っかかる。


「少し、エルクの様子を見てきてもらえますか?」

「心配ないよ。大丈夫だから」


 飼育員はそう言って、別の生徒のもとに行ってしまった。

 問題はないようだが、念のため、ノアに注意しておこう。


「ねえ、ノアさん」

「……何?」

「ノアさんのエルク、少し興奮しているみたいだから、気をつけておいて。一応、飼育員は平気だって言っていたけれど」

「どう気をつけろって言うの? 飼育員は大丈夫って言っていたんでしょう?」

「それは……そうね。ごめんなさい」


 また、ノアに対してお節介をしてしまったようだ。心の中で反省した。

 ついに、私達の番となる。

 先にノアが出発した。私もすぐあとに続く。

 出発前は少し風が強い程度だったのだが、次第に吹雪いてきた。

 視界もだんだん悪くなっていく。嫌な予感しかしない。


 林間コースの坂はなだらかだが、コースから外れた先は崖である。

 エルクが大人しく走ってくれますように、と祈っていたら、ノアのソリが大きく傾いていることに気づいた。


「――え?」


 ゆるやかなカーブだったが、ノアのエルクは大きく跳ねる。

 ノアが乗ったソリはふわりと宙に浮き、手綱とソリに繋がっているベルトがブチッ! と音を立てて切れた音が鳴り響いた。  

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