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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・第三章 雪山課外授業にて

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エアとお菓子タイム

「あ、そうそう! 登山中に食べようと思っていたお菓子、エアにもわけてあげるわ」


 手作りお菓子だと言うと、エアは嬉しそうな顔をしてくれる。


「ミシャの手作り料理、なんか久しぶりだなー」

「懐かしむようなことを言って、食堂の料理のほうがおいしいでしょう?」

「いやー、どっちも好きだな。食堂の料理は温かくて、こう、がっつり食べられるけれど、料理の種類とか味はミシャの料理のほうが好みだから」

「あら、光栄ね」


 羊羹とどら焼きをテーブルの上に並べると、エアは不思議そうな表情で見つめている。

 いくら私の料理が好きでも、これらの料理は少しお口に合わないかもしれない。


「初めて見る菓子だな。丸い焼き菓子はまあいいとして、この黒くてつるつるしたのはなんなんだ?」

「羊羹よ。赤豆を砂糖で煮詰めたものを、固めたお菓子なの」

「へーーーー、よーかん、か。初めて見た」


 前世で私が暮らしていた日本で生まれた和菓子なので、見覚えがなくて当然だろう。

 冒険心が豊かなエアは、羊羹から手に取る。


「ゼリーみたいな食感なのか?」

「いいえ。ねっとり、と言えばいいのかしら?」

「ね、ねっとり? 料理じゃ聞かない表現だな」

「たしかに、言われてみればそうね」


 エアの言うとおり、羊羹に似た食感の料理が思いつかない。

 テリーヌとゼリー寄せの中間というのがもっとも近いのだろうか。本当に説明が難しい。


「食べたほうが早いか」


 エアはそう言って、ためらいもせずに羊羹を頬張った。


「ん? おお……あ~~、こういう」


 何やらぶつぶつ言いながら、百面相を見せつつ羊羹を飲み込む。


「どうだった?」

「いや、最初はスライムを食べているような気分になったんだが、食べ進めてみるとおいしいのでは? と思うようになった。もう一個食べてみてもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 エアは二個目の羊羹を頬張り、すぐに感想を口にした。


「うん!! これはおいしい菓子だ」

「本当? よかったわ」


 どら焼きのほうがまだ食べやすいのではないか、と思っていたが、エアは羊羹のおいしさを理解できる男だった。


「これはラウライフの伝統的な菓子なのか?」

「いえ、ラウライフというよりは、私のご先祖様に伝わるソウルフードというか、なんというか」

「へえ、歴史があるんだなー」


 エアはいい方向に解釈してくれた。深く突っ込まれなかったので、ホッと胸をなで下ろす。


「こっちも食べてみて。どら焼きっていうの」

「どら焼きは何か挟んであるのか?」

「ええ。固める前の羊羹の中身、あんこが入っているの」

「へえ、おいしそうだな」


 どら焼きはすぐにおいしい、と絶賛してくれた。


「中身のあんこ? ってやつはよーかんとはまた違う味わいなんだな。こっちは豆の食感がほくほくしている」

「でしょう? 私はどちらも大好物なの」


 お礼として、エアがお菓子をわけてくれると言ってくれたのだが、〝芋虫グミ〟やら〝ウサギの糞チョコレート〟、〝トカゲの干物ガム〟などなど、個性的な物ばかりだったので、丁重にお断りさせていただいた。


「全部おいしいのに」

「エア、見た目は大事なのよ」

「男子はみんなこれが好きなんだけれどなー」


 昨晩、これらのゲテモノ系お菓子をレナ殿下にもあげようとしたらしい。


「さっきのミシャみたいに、丁寧にお断りされたんだ」

「お上品なお方に、なんて物をあげようとしていたのよ」

「だって、男子だったらみんな好きだと思っていたから」


 レナ殿下は女子です、とは言えなかった。


「なーんかさ、彼、同じ生き物とは思えないんだよなあ」

「どうして?」

「品行方正を擬人化したような人物というか、話していると人間として仕上がりすぎていて、遠い存在みたいに思えるんだ」


 五歳以上年が離れた大人と話しているような気分になっていたらしい。


「仕方ないわよ。彼は幼少期から大人に囲まれて、特別な教育を叩き込まれているようなお方だから」

「わかっているんだけれど、同じ十七歳とはとても思えなくって」

「まあ、そうね」

「ミシャはよく、普通に話せるよな」

「それは――」


 私には前世があるから、なんとか話を合わせられるのだろう。

 さらに本当は女性だという秘密を知っているので、レナ殿下は他の人よりも気楽に接している部分があるのかもしれない。


「でも、あの人のすごいところは、平民である俺を見下したりしないんだ。見ていたら誰にでも同じように接しているみたいで」


 この国は身分社会である。特権階級に身を置く者達は、下にいる者達をわかりやすく〝差別〟する。

 貴族と平民を〝区別〟することは当たり前だが、それを勘違いし、ほとんどの者達が差別をしてしまうのが現実である。

 けれどもレナ殿下は差別も区別もしない。稀なお方だろう。


「あの人の前にいると、平民だからって卑屈にならなくてもいいんだな、って考えるようになった」


 レナ殿下と接する中で、エアは貴族との付き合いについて、前向きに考えられるようになったようだ。


「初めて、手本にしたい人に会えたんだ」


 どんな場面でも、レナ殿下を意識した行動を取れるようになったら、向かうところ敵なしだろう。


「ただ、キザというか、紳士的過ぎる態度は真似できないとは思う」

「いや、あれはまた別の才能よ」


 人誑しというか、なんというか。

 神より与えられし祝福ギフトなのかもしれない。

 

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