バーベキューをしよう!
バーベキューセットの内容は牛肉に豚肉、鶏肉に川魚、ホタテみたいな貝、ズワイガニやオマールエビみたいな甲殻類にパン、マシュマロまである。
昼間の食材がカチコチで生徒からクレームが届いたからか、夜の分は凍っていなかった。
バーベキュー用のコンロや網、火の魔石にトングなども用意されている。至れり尽くせりというやつだ。
十七歳の少年少女であれば大喜びするような夕食だが、ノアは違った。
盛大に顔を引きつらせていた。
「ノアさん、どうかしたの?」
「こんなもくもく煙が立ちそうな料理、家の中で食べたら、服に臭いが染み付くと思って」
「それはたしかに」
家の中がだめならば外で、と思うかもしれないが、外で食べるような環境ではない。
どうしたものか、と考えた結果、あることを思いつく。
「いい案があるわ。準備をするから、ノアさんはそこで見ていて」
「なんなの?」
小首を傾げるノアの前で、私は呪文を唱える。
「――積み上がって山となれ、雪よ!」
魔法が発動し、積もっていた雪が半円のドーム状と化す。
中の雪は火魔法で溶かそうと思って懐を探る。
それは以前、エアから貰った魔導カードで引き当てた火属性のカード〝必殺! バースト・スーパー・ストーム〟だ。
発動させようとした瞬間、待ったがかかる。
「ミシャさん、ちょっとそれ! 魔導カードじゃないの!?」
「そうだけど」
「どうしてここで使うの?」
「中の雪を溶かそうと思って」
「もったいない上に威力がけっこう強いから、雪の塊ごと吹き飛ばしてしまう」
「そうだったのね。知らなかったわ」
雪を掘りたいのならば、マオルヴルフの爪でくり抜いてくれるという。
「ありがとう。じゃあ、お願いできる?」
「ああ、任せて」
あっという間にマオルヴルフが雪を削り取ってくれたので、立派な雪かまくらとなる。
ただ、これで完成ではない。
ジェムに頼んで、雪かまくらの上に乗って煙突に変化してもらう。
「ああ、なるほど。煙突を作って、煙を外に逃がすわけか」
「そうよ。これだったら、中に煙がこもらないはず」
雪かまくらの中にバーベキューコンロを設置し、火の魔石を点火したあと網を重ねる。
肉や魚は串打ちして塩をまぶす。貝は殻の上部のみを外し、エビとカニはカットしてから焼いていった。
ジュウジュウという、おいしそうな音が聞こえてきた。
煙はいい感じに煙突に吸い込まれ、外に排出されていった。目論み通り、そこまで煙たくない。
「牛肉はもういいわね」
エビとカニの焼き加減を真剣な様子で見ていたノアに、牛串焼きを差しだす。
「ありがとう」
お肉に入っていたサシが美しかったので、これはきっといいお肉だろう。
上品なソースはないものの、こういう上質な肉は塩だけでも充分おいしい。
一応、お皿とナイフ、フォークなどのカトラリーを用意していた。けれどもノアは私がかぶりつくのを見たからか、同じように串のままで食べていた。
「んっ、おいしい!」
ノアの瞳がキラリと輝く。それから何も言わずにパクパクと食べていた。
予想通り、とてもよいお肉で、噛むと肉汁がじゅわっと溢れ、塩だけで美味だった。
魚は皮はパリパリ、身はふっくら。脂が乗っていておいしい。
貝やカニ、エビも最高だった。
最後のお楽しみはマシュマロだろう。
「ミシャさん、なんでマシュマロがあるの?」
「これも火で炙って食べるからよ」
マシュマロを串に刺し、焼いてみる。
火力は十分にあるので、表面に焼き色が入った。
「はい、どうぞ」
「いいの?」
「もちろん」
熱いから気をつけるようにと注意すると、ノアはフーフーもせずに、じっと待つ。
フーフーはマナー違反なので、ノアが正解である。
私は二個目のマシュマロを炙り始めた。
「そろそろいいかな」
ノアは小さく呟き、マシュマロを頬張った。
「んん!?」
ノアの瞳がキラキラ輝く。どうやらお口に合ったらしい。
私はビスケットと板チョコを取りだし、マシュマロを入れてサンドした。
「それは何!?」
「スモアよ」
前世で一時期キャンプブームとなり、そのさいに人気を博したスイーツである。
「これも食べてみて」
「ミシャさんも食べないと」
「いいから!」
今度は冷めるのを我慢できなかったからか、ノアはあつあつの状態のスモアを頬張った。
「な、何これ!? おいしすぎる!!」
ノアは頬を染め、今にもとろけそうな表情でスモアを食べ進める。おいしかったようで、ホッと胸をなで下ろした。
私も炙ったマシュマロに、スモアのフルコースを食べた。
カロリーについて考えたら卒倒しそうだが、幸いにもここは雪山である。生きるために必要なエネルギーだと割り切って、満足するまで堪能したのだった。