クラフトの授業・後編
ノアと友情を分かち合ったところで、改めて魔鉱石を確認する。
穴の中で剥きだしとなった魔鉱石は、かなり大きい。
「ノアさん、あの魔鉱石、どうやって穴から引き上げるの?」
「それは簡単だよ」
ノアは杖を取りだし、呪文を唱える。
「――突きでろ、岩の杭!」
ガタガタと音を立てて地面が揺れたかと思いきや、穴の中で魔鉱石が右に、左にと揺れているのに気づく。
杭状になった岩をいくつも作って、魔鉱石を地上へ押し上げようとしているのか。
だんだんと魔鉱石は登ってきたものの、途中である変化に気づいたので叫んだ。
「ノアさん、魔鉱石にヒビが入っているわ!」
「くそ!!」
どこで覚えてきたのか。ノアは悪態を吐いたあと魔法を止める。
魔鉱石は普通の岩よりも耐久性がないため、少しの衝撃でも割れやすいのだろう。
「ちょっと待って。あんな大きな魔鉱石、魔法以外で地上に上げるのは無理なんだけれど」
「ええ……」
どうしようか、と頭を悩ませていたら、ジェムが触手を伸ばし、私の肩をちょいちょい叩く。
「ジェム、どうかしたの?」
何か訴えようとするジェムは、自分で作った雪の塊を持ち上げる仕草を取った。
それを見て、ピンとくる。
「もしかして、ジェムが魔鉱石を地上に上げてくれるの?」
そう尋ねると、ジェムはこっくりと頷いた。
「ジェム、できるのね!」
思わずジェムを抱きしめ、よしよしと撫でる。
「ノアさん、ジェムが魔鉱石を引き上げてくれるらしいわ」
「できるのか?」
「この子、とっても力持ちなの」
「わかった。任せてみよう」
ジェムは複数の触手を穴にめがけて伸ばし、その場で飛び上がる。
すると、魔鉱石が地上に引きずられて登場した。魔鉱石はズサ! と大きな音を立てて、雪の上に着地する。
「せ、成功しやがった」
「ジェム、すごいわ!!」
ジェムは額に汗なんて掻いていないのに、「ふう」と汗を拭うような仕草を取る。
私はジェムの隣で飛び跳ねて喜んだのだった。
穴から発掘した魔鉱石は思っていた以上に巨大だった。
二メートルはあるだろうか。
これをこれからノアの指示で、マオルヴルフが削ってくれるらしい。
「マオルヴルフ、僕がいいと言うまで、魔鉱石を削るんだ」
『キュン!』
マオルヴルフは敬礼のようなポーズを取ったあと、魔鉱石に飛び乗って爪で削る。魔鉱石はゼリーみたいにさくさく削れていった。
魔鉱石の欠片はすべて集めて革袋に詰め、ジェムに持っておくようお願いしておく。
ノアは真剣な様子で、マオルヴルフに指示をだしていた。
「まだまだ、うん、それでいい。そこはもう少し」
瞬く間に、魔鉱石が浴槽の形になっていく。
仕上げは魔法でやすりをかけるらしい。
「――研ぎ磨け、研磨!」
荒く削り取られた浴槽は、あっという間に滑らかになる。魔法の力で、美しい浴槽が完成した。
「ノアさん、あなた本物の天才だわ。どうしてそんな魔法が使えるの?」
「研磨は爪を磨くために習得していただけだから」
「そうなのね。すばらしい仕上がりよ」
「でも、問題があって」
「何かしら?」
「このままだと運べない」
いくら雪の上でも、魔鉱石製の浴槽を押して持っていくのは大変だろう。
「ジェムに頼んでみるわ」
先生のもとまで運んでくれないか、と頼み込むと、ジェムは触手で丸を作ってくれた。
「僕とミシャさんが作ったこの作品が、一番だろう」
「でもこの浴槽、ノアさんがひとりで作った物だから、連名で提出するのは申し訳ないわ」
「何を言っているんだ。魔鉱石を探したり、魔鉱石を引き上げたりしたのは、ミシャさんと使い魔じゃないか」
「ジェムの功績ね。私は関係ないわ」
「ある! その気まぐれな使い魔をやる気にさせたのはミシャさんだし、ミシャさん抜きではこの浴槽は作れなかった。だから、一緒に完成させた作品なんだ」
わかった? と聞かれ、私はこくんと頷く。
「よし。じゃあ、この作品を先生に見せて、驚かせてやろう」
「そうね」
ジェムはソリとトナカイに変化し、浴槽を運んでくれた。
シルエットは完璧なトナカイだったが、顔のクオリティが低い。その辺まで頑張ってほしかったのだが。まあ、いい。運んでくれるだけでも感謝しよう。
この浴槽を見た先生達は、驚愕する。
「これをここにある材料で作ったというのか!?」
「間違いでは?」
「信じられない」
疑われていたものの、ホイップ先生がやってきて助け船をだしてくれた。
「鑑定で調べたら、ここにある材料を使ってこの子達が作ったとわかるはずよお」
そう指摘されたあと、先生達は鑑定魔法を使って調べてくれたようで、無事、私達の作品だと信じてくれた。
「この浴槽は満点以上の点数を与えないといけないクオリティだ」
「魔鉱石を掘って浴槽を作るなど、前代未聞だ」
「すばらしい」
他の生徒はスノーマンや雪ウサギ、針葉樹のリースなどなど、お馴染みの手工芸を作っていたらしい。私達の作品だけ、レベルが桁外れに高いと評価してもらった。
学年一位となった私達には、豪華なバーベキューセットが贈られたのだった。