クラフトの授業・中編
大きさはモルモットと同じくらいか。モフモフしていて毛並みがよく、つぶらな瞳が愛らしい。
とてもかわいい使い魔だが、ヴィルの聖竜やレナ殿下の一角馬に比べたら、その、レア度はそこまでないような。
もしかしたら私が知らないだけで、高名な妖精や精霊、幻獣かもしれないのだ。
こういうのは遠慮して聞かないほうが逆に失礼になる。
そう思って質問してみた。
「ノアさん、その子は?」
「モグラの魔法生物」
どうやら魔法生物だったらしい。
王家の血筋だからと言って、珍しい使い魔が召喚できるわけではないようだ。
「名前はマオルヴルフ」
「かっこいい名前ね」
「でしょう?」
モグラの魔法生物ことマオルヴルフが、魔鉱石の反応があった場所を掘ってくれるらしい。
「てっきり土魔法で掘り返すのかと思っていたわ」
「土魔法だと、雪は掘り返せないから」
「ああ、なるほど」
ノアが命令すると、マオルヴルフはザクザクと雪を掘り返してくれる。
途中、降り積もった雪が堅いのか、ガリゴリと粉砕するような音が聞こえた。
けれども難なく掘り進める。
「あの子、すごいわ!」
マオルヴルフの穴掘りを絶賛すると、ノアはまんざらでもない、といった感じの笑みを浮かべる。
私がマオルヴルフを褒めたからか、ジェムが思いがけない行動にでた。
なんと、ジェムはマオルヴルフが掘った穴に飛び込み、一緒に掘削作業を始めたではないか。
「え、ミシャさんの使い魔、穴掘りもできるの?」
「いえ、私も今日知ったというか、なんというか、あの子、負けず嫌いでなんでもやろうとするの」
私が誰かを褒めると、ジェムは自分もこれくらいできる! とばかりに張り合おうとするのだ。
「マオルヴルフの作業を邪魔してごめんなさい」
「いや、でも、かなり雪が硬かったみたいだから、逆に助かるかも」
「そう?」
穴を覗き込むと、マオルヴルフとジェムが協力して掘っていた。
雪はすべて掘ったようで、土が見えてくる。
「よし、これくらいでいいだろう」
ノアが声をかけると、鼻先に土を付けたマオルヴルフと、きれいなままなジェムが戻ってきた。
「マオルヴルフ、ありがとう」
ノアがマオルヴルフを労うと、きゅう! という愛らしい鳴き声を上げていた。
「ジェムもありがとう」
『きゅーん!』
ジェムが突然鳴いたので、びっくりしてしまう。
これもマオルヴルフに対抗したからなのか。雪山ではびっくりするだけでもエネルギーを消費するので、驚かせないでほしい。
ここから先はノアの魔法で魔鉱石を掘り返すようだ。
「――揺れ動け、振動!!」
ガタガタと地面が揺れ、その場に尻餅をつきそうになる。しかしながら、ジェムがクッションとなって私を受け止めてくれた。
あっという間に土が掘り返され、魔鉱石と思われる大きな石が見えた。
「やった! 白い石だ!」
「白い石?」
穴を覗き込むと、たしかに白っぽい石に見える。
すぐにノアは鑑定魔法を発動させた。
「――見定めよ、鑑定!」
穴を覆うように魔法陣が浮かび上がり、文字が浮きでてきた。
アイテム名:魔鉱石
属性:雪
希少性:★★★★
説明:とても珍しい、雪属性の魔鉱石。加工すると雪魔石となる。
「えっ、なんで私にも鑑定結果が見えるの!?」
「見えるようにしたの。ミシャさんも確認したいだろうと思って」
「あ、ありがとう。というか、そんなことができるのね……!」
情報も私が鑑定するよりも情報量が多い。
ノアはレベルが高い鑑定魔法を扱えるようだ。
文字を読み進めていると、我が目を疑うような情報が書かれていた。
「雪魔石ですって!?」
私が喉から手がでそうなくらい欲していたアイテムである。
「ミシャさん、雪魔石を探していたの?」
「ええ。雪属性の杖を作る材料にしたくって」
「ふーん、そうだったんだ」
まさかここで発掘できるなんて驚きである。
「だったら、浴槽作りで余った魔鉱石はミシャさんにあげる」
「いいの!?」
心の中でジェムと魔鉱石探しをする決意をしかけていたのだが、ノアが分けてくれるという。
「掘削作業はミシャさんの使い魔も手伝ってくれたし」
「ノアさん! ありがとう、嬉しい!」
喜びのあまりノアに抱きついてしまったが、体つきが明らかに女性のものとは異なると気づき、すぐに離れた。
「ご、ごめんなさい。嬉しかったから、つい」
「いいけれど、こういうのをお兄様にもしているんじゃないよね?」
「ヴィル先輩にはしていないわ! ノアさんはその、お友達だから」
「友達だって!?」
大きな声で聞き返され、しまった、と思う。
これまで一緒に過ごす中で、いつの間にか勝手に友達認定をしていたのだ。
「あの、今の言葉は忘れ――」
「嬉しい」
ポツリ、と呟かれた言葉は、意外なものだった。
「これまで、友達なんて一人もいなかったから」
「いつも学校で一緒にいる子達は?」
「あれは、リンデンブルク家の名に目が眩んだ奴らだ。友達でもなんでもない」
かなり辛辣な物言いである。
けれどもヴィルも、以前、似たような話をしていた。
「ミシャさんとペアになれて、本当によかった」
ノアは頬を染め、少し照れたような様子で言う。
嬉しくなって「私も」と言葉を返したのだった。
次話より隔日更新となります。毎日更新期間にお付き合いいただき、ありがとうございました!




