エアとレナの家
辺りにポツポツ立っている雪の家は、ほとんど雪かまくら型のようだ。
しかしながら、レンガ建ての正方形の家が一軒だけ建っていた。
「この家は立派だな」
「ええ。よくできているわ」
なんて話をしていたら、扉が開く。
すらっとしたシルエットはレナ殿下か。ノアもそう思ったのか、とびっきりの猫を被って駆け寄った。
「レナ殿下のお家だったのですね!」
猫もびっくりの猫なで声で話しかけ、腕にしがみつく。
よくあそこまでできるな、と思っていたら、「うわっ!!」と悲鳴が上がった。
「俺はレナじゃない!」
「あ」
現れたのはレナ殿下でなく、エアだった。
ノアはすぐに離れ、「なんだ」と低い声で呟く。
「逆光だったから顔が影になって、見間違えてしまったのよね?」
「まあ、そうだけれど」
そのままやり過ごそうとしたので、ノアに「エアにごめんなさいは?」と促す。
ノアはふてくされた様子で、「ごめん」と謝った。
「エア、悪かったわね。私もレナ殿下かと思ったの」
「身長が同じくらいだから、間違ったんだろうな」
魔法学校の入学当初はレナ殿下のほうが高かった。けれどもエアはそこからぐんぐん背が伸びて、今では同じくらいなのだとか。
「三食しっかり食べるようになったから、成長したんだろうな」
たしかに、入学前は少年という言葉がふさわしかったが、今は青年のほうが似合っているだろう。
「エア、騒がしくして、どうかしたのか?」
今度こそ、レナ殿下がでてくる。
ノアはさっきと同じ言動を繰り返し行ったようだ。
レナ殿下はノアの対応に慣れているのか、頭を優しく撫でていた。
「いや、ミシャ達が俺とレナを見間違えたんだよ」
「私達の顔は似ているだろうか?」
「ぜんぜん似てないよな」
「でも、背丈は同じくらいだったから、勘違いしてしまったのよ」
「そうだったのか」
立ち話もなんだから、とレナ殿下とエアは家に案内してくれた。
「すごく頑丈そうで立派な家を作ったのね」
「ああ。ほとんどレナが頑張ったんだ」
「そんなことはない。エアの努力のおかげでもある」
心配していたが、エアとレナ殿下の雰囲気はよさげだ。
ノアは嫉妬しているのかと思いきや、すんと澄ましている。エアとレナ殿下の仲のよさに腹を立てているようには見えなかった。
さすが、将来の王太子妃の器、と言えばいいのか。落ち着いたものである。
家の内部は何もなく、広い空間があるばかりであった。
しかも、寒い。
ノアは入った瞬間、くしゅん、とくしゃみをした。
「この家、ひんやりする」
ノアの素直過ぎる感想に、エアが言葉を返す。
「そりゃ、雪の家だからな」
「魔法式に結界の呪文を加えたら、寒さを防げるんだけれど」
「そうなのか!?」
魔法陣が描かれた敷物をノアは眺め、追加で結界魔法を入れられるか確認する。
「ねえ、ここに結界魔法を入れられるはず」
「ああ、なるほど。そういう意味か」
「すごい! お前、天才か?」
エアから褒められたノアは、当然! とばかりに優雅に微笑む。
すぐにレナ殿下は結界を魔法陣に反映させる。すると、ひんやりとした空気が一気になくなった。
「これはすばらしい!」
「寒くないって幸せだ!」
ノアのおかげで、快適な空間になったようだ。
レナ殿下はノアの手を握り、感謝の気持ちを述べる。
「ノア、ありがとう。君は自慢の婚約者だ」
「もったいないお言葉ですわ」
ぶりっ子全開なノアを見て、エアが「さっき俺にしぶしぶ謝罪していたのと同一人物か?」なんて聞いてくる。
生意気なほうがノアの本性だ、と教えてあげた。
その後、アリーセの家も見に行った。
半円状の家の中で、唯一変わった形があった。それを見てすぐに、アリーセ達の家だと気づく。
なぜかと言えば、猫の耳が生えていたから。
「ア、アリーセ?」
声をかけると、予想通りアリーセが家からでてきた。
「まあ、ミシャ! どうしましたの?」
「家を見回っていたの」
「そうでしたのね」
アリーセは自慢げな様子で、猫耳ハウスを見せてくれた。
「一生懸命作りましたの! いかが?」
「いや、アリーセらしいと言うか、なんと言うか、とっても愛らしいわ」
「でしょう?」
なんでもペアになった相手とふたり、猫好きだったようだ。イメージはすぐに固まったらしい。
アリーセのペアの子は火属性の持ち主のようで、対象のみを温める魔法があり、寒さについては心配いらないらしい。
「よかったわ」
「ええ、わたくしは大丈夫ですので」
私達も大丈夫だ、と言っておく。
「ノアと一緒に、あの家を作ったの」
「まあ、あれはミシャ達のお家だったのですね」
「ええ」
あとで遊びにきてくれるようだ。楽しみにしておこう。
そんなこんなで休憩時間が終わる。
午後からの授業では、手工芸を行うようだ。