雪の家、完成!
雪の家の周囲をくるりと見て回ったが、欠陥もなく、しっかり造れているように見える。
ノアが雪のレンガを拳でコンコン叩いていたが、石のように堅い仕上がりらしい。
「ミシャさん、中に入ってみよう」
「そうね」
問題は扉が開くのか。蝶番みたいなものはあるものの、きちんと機能しているのか謎である。
また、中はしっかり空間になっているのかも気になるところだ。
見た目だけ完璧な家でも、中には雪がぎっしり詰まっていた、だったら意味がない。
ドキドキしながらドアノブを捻ると、ギシ、と堅い雪を踏んだときのような音が鳴り、扉が開いた。
ノアと一緒に家の中を覗き込む。
内部はしっかり空間があり、テーブルと椅子、棚などがある、ダイニングルームみたいな仕上がりだった。
「わっ、すごい!」
「しっかりできているじゃないか」
授業では結界を展開し、寒さから守ると習った。けれども何もしていないのに寒くない。
「どうして寒くないの?」
「結界の効果を家の魔法陣に組み込んでみたんだ」
「すごいわ! そんな高度な魔法陣をあの短時間で作っていたなんて」
「だって、夜中も交代しながら結界を展開し続けなければいけないなんて、無理だから」
思っていた以上に、ノアは天才的な魔法構成の才能がありそうだ。
内装は細かなところまで美しい。
天井にはシャンデリアのような物もあって、部屋を明るく照らしている。
テーブルや椅子は猫の脚になっていた。
この辺りも、ノアが魔法式で構成していたようだ。
ダイニングルームには二つの扉があり、片方は寝室となっていた。
雪の寝台があり、ここに布団を敷いたら眠れそうだ。
「もうひとつの部屋はもしかして台所とか?」
「いいや、寝室だ」
「どうして二つも――あ!」
私とノアが別々に眠れるように、寝室を二カ所作ったようだ。
「賢いわ」
「もしかして、一緒に眠るつもりだったの?」
「いいえ、私はダイニングルームでもいいかな、と思っていたの」
「そんなことさせるわけないでしょう」
「ノアさん、そこまで考えてくれていたなんて、ありがとう!」
「別に、ミシャさんのためじゃなくって、自分のためだから!」
素直じゃないお年頃なのだろう。
何はともあれ、これで夜の気まずい問題はどうにかなりそうだ。
家が完成したので、先生達に採点してもらう。
先生達は立派な外観から驚いていたが、内装を見てさらに驚いていた。
「これはすばらしい!」
「普通の家と遜色ない仕上がりだ!」
大絶賛された私達の雪の家は、学年一位の成績となった。
ご褒美として得たのは、タラのスープにパン、鹿のステーキだった。
ただ、受け取ったそれはキンキンに冷えるどころか、カチコチに固まっていたのだ。
なんでも学校から出来立てを運んできたようだが、ここに来るまでに凍ってしまったらしい。
「これ、食べられないじゃん!」
教師がいなくなった途端、ノアは本音を口にする。
「大丈夫よ。加熱すればいいだけの話だから」
ありがたいことに、スープは鍋ごと持ってきてくれたので温めやすい。
「でも、こんな風が強い中で火なんか熾せるわけ――」
「大丈夫よ。室内でするから」
「は!?」
信じがたい、という表情を浮かべるノアと共に、家の中へ入る。
「ねえジェム、この鍋のスープがぐつぐつ沸騰するまで温めてくれる?」
ジェムは触手を伸ばして敬礼のポーズを取ると、雪を固めて作ったテーブルに飛び乗る。
クッションのように広がったジェムの上に鍋を置いた。
テーブルが溶けるのではないか、と思ったものの、熱は鍋にしか伝わっていないらしい。
「このスライム、火属性なの?」
「いいえ、違うわ。この子は宝石スライムといって、いくつかの属性を併せ持つ精霊なの」
「精霊!? ミシャさんは精霊を使役しているの?」
「ええ。偶然召喚できたのよ」
「偶然なものがあるか! 召喚の儀式は召喚者よりも実力が上の存在なんて呼べるわけがない!」
「そうだったんだ」
ただ、ジェムの場合はかなり気まぐれな性格なので、私の実力なんて気にもせずに召喚に応じた可能性がある。
なんだか自信をなくしそうなので、その辺については深く考えないことにした。
鹿のステーキは鍋の蓋をひっくり返して並べ、パンは清潔なハンカチに包んでジェムの上に直接置く。
数分と経たずに、あつあつの料理ができあがった。
家の中には雪でできた食器棚があり、雪のお皿やティーセットがある。
ジェムの上に載せて確認してみたが、どうやら熱を通さないようになっているようだ。
「ミシャさん、その、熱を通さない雪の食器は、どういう構造になっているの?」
「わからないわ。ノアさんの魔法式のおかげじゃないの?」
「そこまでやっていない」
だとしたら、私が無意識に作りだしたものなのか。
熱を加えても溶けないなんて、不思議なものである
たぶんだけれど、ノアが作った結界魔法の影響を受けているのだろう。
理由はわからないが、ありがたく使わせていただこう。
雪のヤカンに水を注いで、ジェムの上に置いて沸騰させる。雪のポットに茶葉を入れ、湯を注いだ。
本当に溶けないようで、よくできているな、と感心してしまう。
雪のお皿にスープとパン、鹿のステーキを盛り付けたら、食事の準備は整った。
椅子を引いた瞬間に、ふと気づく。
「ノアさん、この椅子、冷たくないわ」
「本当だ」
なんなんだ、この魔法は……。
まあ、普通の家みたいに使えるのはありがたい。
雪の椅子に腰掛け、雪のカトラリーに盛り付けた料理をいただく。
タラのスープはほどよい塩っけで、疲れた体に染み入る。
パンはふかふかで、小麦の味わいが香ばしい。
鹿のステーキはとてもやわらかくてジューシー。
あっという間にペロリと完食してしまう、おいしい料理だった。