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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・第三章 雪山課外授業にて

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ペアに分かれて

 ひとまず十五分の休憩が言い渡された。皆、ぐったりした様子でいる。

 あのノアでさえも、疲れた様子でトランクに腰掛けていた。

 レナ殿下は座り込んだ子達に大丈夫か声をかけて回っていた。さすがとしか言いようがない。

 スノーシューとソリを使ってやってきた私達は、そこまで体力は消費していなかった。

 ホイップ先生が皆におやつを食べて体力を回復させるように、と言い回っている。

 私はポケットに入れていたナッツを囓ってエネルギー補給した。

 アリーセは卵ケーキを食べていたのだが、口の中の水分を持っていかれたようで、飲み込むのに一苦労している。


「おいアリーセ、大丈夫か?」

「え、ええ……」


 エアは心配そうにアリーセの顔を覗き込んでいる。

 私は誰も踏んでいない新雪を掬い取って、火の魔石を使って溶かした水をアリーセに渡した。


「二人とも、ありがとうございます」


 アリーセはごくごく普通に学校生活を送っているように思えたが、一歩外にでると、箱入りのお嬢様なんだな、としみじみ思ってしまう。

 三日間、雪山での生活が耐えきれるものか心配になった。


 休憩が終わると、ペアにわかれるように指示があった。

 エアやアリーセとはここで一旦お別れである。


「アリーセ、何か困ったことがあったら、いつでも私のもとにきてね」

「俺も、何か力になれることがあったら、呼んでくれ」

「ええ、わかりました」


 アリーセのペアの子がやってきて、一緒にトランクを運んでくれた。とても優しい子と組んでいるようなので、心配ないだろう。

 エアとも別れる。


「あー、エアも、いつでも私を頼っていいからね」

「心強いな」

「雪国育ちですから!」


 女性であるレナ殿下と一晩過ごすなんて、大丈夫なのか。

 ただ、レナ殿下の立ち回る能力はかなりのものなので、なんとか乗り越えてくれるだろう。

 私も頑張らなければ。


 やるぞ!! と勇気を振り絞ったのちに、ノアのもとへと向かった。

 彼はここまで歩いてきた疲れから回復していないようで、疲労が滲みまくった背中を見せている。

 まだ立ち上がることすらできないようだ。


「ノア、お待たせ」


 私が声をかけると、ノアの背中がピンと伸びた。

 大丈夫? などと声をかけたら、彼のプライドを傷つけてしまいそうだ。なんて、考えること自体が仲良くなれない原因の一つなのだろう。


「大丈夫? きつかったら、ホイップ先生に言ったほうがいいよ」

「平気、だから」


 それは強がりにも聞こえたものの、それほど怒っているようには見えない。

 やはり、遠慮しすぎるのもよくないのだろう。


「ここにきて何か食べた?」

「何も。気持ち悪くって」

「ナッツだけでも食べられない?」


 飴みたいに油紙に包んだナッツを差しだすと、素直に受け取ってくれた。

 そのまま食べてくれたので、ホッと胸をなで下ろす。


 学年主任の先生が周囲を見回し、拡声魔法を使って話し始める。


「よーし、全員ペアにわかれたな」


 まず、ここでやるのは一晩明かすテント作りである。

 テントと聞いていたので布製のペラペラしたものかと思いきや、畳二畳分くらいに書かれた魔法陣が配られた。

 これはいったい……? 続けて説明がなされる。


「それは魔法の家を作る魔法陣だ。ただ完璧ではないので、魔法式を完成させて、家を建てるように」


 この寒空の下、これをやらせるなんて悪魔としか言いようがない。

 けれどもテント作りは体力を消費するので、どっちもどっちか。


 ちなみに完成した家のクオリティを見て、食事のランクを決めるらしい。

 昼食くらい、なんの心配もなく食べたかったのだが。


「はあ、普通にテント張るほうが楽なんだけれど」

「ひとまず挑戦してみましょう」


 魔法陣が書かれた布を広げてみる。

 それはゴーレムを作りだす魔法によく似ていた。

 魔法陣を読み解いていくうちに、これから作る家の正体に気づいてしまった。


「嘘でしょう。これ、雪で家を作る魔法じゃない」

「うわ、最悪」


 雪かまくらの中は意外と温かい、なんて話を聞いたことがあるものの、ラウライフにいるときは一度も作ろうとは考えなかった。

 そんな暇なんてなかったし、外にでるだけで低体温症になってしまうような環境だったからである。

 雪の家で一晩何もなく過ごせるのか。不安でしかない。


「やるしかない」


 腹をくくったノアはそう宣言し、ペンを握って魔法陣の魔法式を解き始めた。

 私も呪文を読み解いていく。

 ノアは頭がいいようで、すらすらと魔法陣を書いていた。


「私、雪属性持ちだから、魔法の展開を担当するわね」

「わかった」


 その後、会話もなくシーンと静まり返っていたが、ノアがぽつりと喋り始める。


「僕の属性は〝土〟だ」

「あら、そうなの」


 華やかな水か、優雅な風かと思っていた。


「今、似合わないと思っていなかった?」

「いや、まあ、思ったわ」

「やっぱり。泥臭い属性なんて、僕には似合わないのに」

「そう? 私は土属性、好きよ」


 畑を耕せたり、土を掘り返したりと、田舎暮らしをする上で喉から手がでるほど習得したい魔法が使えるのだ。


「好きだなんて、初めて言われた」


 ノアは土属性をコンプレックスに思っていたという。

 彼が弱みを口にするなんて、意外である。

 まさか短時間でここまで心を開いてくれるなんて、夢にも思っていなかった。

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