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婚約者から「第二夫人になって欲しい」と言われ、キレて拳(グーパン)で懲らしめたのちに、王都にある魔法学校に入学した話  作者: 江本マシメサ
三部・第二章 雪山へ行く準備をしよう!

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荷造りと夕食

 ついに明日は雪山課外授業である。

 楽しみという気持ちと、ノアと上手く過ごせるかという緊張感が入り交じって、なんとも言えない感情を抱えていた。

 こういうときは、何か作業をするに限る。

 荷造りを行うことにした。

 必要な品は数日前から揃え、トランクの周囲に並べていたのだ。

 トランクに物を詰めるのが苦手なため、後回しにしていたわけである。

 持っていく品は換えのシャツに下着、毛糸の靴下にハンカチ、歯ブラシや歯磨き粉、ブラシ、化粧水に乳液などなど。ヴィルから賜った魔法の手鏡は割れないように、タオルに包んでおいた。

 ヴィルと言えば、以前、彼から貰った火の懐炉カイロも持っていこう。外套のポケットに入れておけば、いつでも使えそうだ。

 ジェムに預けていた雪山用の装備や羊羹、どら焼きも詰めておく。

 あれもこれもと入れていたら、あっという間にトランクがいっぱいになってしまった。


「これ、閉まるかしら?」


 折りたたんでみたら、具をたっぷり挟んだサンドイッチみたいだった。

 蓋の上に乗って潰してみるも、びくともしない。


「な、何か減らさないと……!」


 再び開こうとしたそのとき、ジェムがトランクに飛び乗る。


「え、ジェム?」


 ジェムはトランクの上で大きく跳ね上がり、どかん! と音を立てて着地した。

 すると、トランクがきれいに閉まったではないか。

 チャンスだ! とばかりに私は鍵を閉める。


「閉められたわ! ジェム、あなたのおかげよ!」


 思わずジェムを抱きしめ、頬ずりしてしまう。

 ジェムも嬉しかったのか、じんわりと温かくなった。


「と、そろそろ時間ね」


 今日はヴィルと、校舎の最上階にあるレストランで食事の約束をしていたのだ。

 触手で手を振るジェムに見送られながら、専用の魔法巻物を破って転移する。


 ヴィルはレストランの入り口で待っていた。

 ただそこに佇んでいるだけなのに、絵になるお方である。


「ヴィル先輩、お待たせしました」

「待ってた」


 それは待ちくたびれた、という意味ではなく、会いたかった、と言ったように聞こえた。

 なんだか嬉しくなる。


「雪山課外授業に行く前の日くらい、ミシャに食事を作りたかったのだが」

「いえいえ、こうして夕食をご一緒できるだけでも光栄です」


 ヴィルは完璧主義者なのか、お弁当は作れても、夕食はまだまだ作れないと思っているらしい。私にとっては、パンにハムを挟んだものだけでも立派な夕食なわけだが。


「実は、レストランの料理長に頼んで、料理の手伝いをさせてもらった」

「え、そうなのですか!?」

「ああ。野菜の皮を剥いたり、切ったり、味見をしただけだがな」

「十分すごいですよ!」


 そこで料理の下ごしらえやら、味付けについてやら、いろいろ学んだらしい。


「ミシャがいない間は、ここで調理の手伝いをするつもりだ」

「また、気合いが入っていますね」

「無論だ。ミシャにおいしい料理を作りたいからな」


 ヴィルは料理の才能があるようで、メキメキ成長している。

 プロの料理人に習ったら、さらに実力が向上すること間違いないだろう。


「最近は、料理人になるのも悪くない、と思い始めている」

「王宮の厨房にでもお勤めになるのですか?」

「いや、ミシャの専属料理人だ」

「な、何を言っているんですか! ヴィル先輩を雇えるほどのお賃金なんて、用意できません」

「いや、無償でもいい。好きで作るだけだからな」


 なんだ、その、聞いただけで卒倒してしまいそうなボランティア活動は。

 どうしてそこまでできるのか謎でしかなかったが、本人に問い詰めるととんでもないことを言いそうだったので、聞かなかったことにした。


「えー、その、お腹が空きました! ヴィル先輩がどんな料理を作るお手伝いをしてくれたのか、楽しみです!」

「ああ、期待していてくれ」


 レストランへ入店すると、ウエイターから個室へ案内してもらった。

 すぐに料理が運ばれてくる。

 アミューズ――食前のお楽しみは、白薔薇を模したカブとチーズのマリネだった。


「ミシャの分は私が飾り付けをした」

「この白薔薇を作ったのですか?」

「ああ、そうだ」

「器用ですね」


 ヴィルが見つめる中、食べにくいな、と思いつついただく。

 カブはパリパリ、チーズは濃厚で、ほどよく効いた酸味が口の中をさっぱりしてくれる。


 続いてオードブル――前菜は季節の野菜と旬の魚のテリーヌ。

 鮭の鮮やかなオレンジが花のようになっていて、芸術品のような一品である。


「これは料理長の仕事を見ているだけだった。いつかこのように美しいテリーヌを作ってみたいものだ」

「いや、これは家庭料理で再現できるものではないような……」

「頑張って習得しよう」


 有言実行のお方なので、本当に作ってしまいそうで恐ろしい。

 まさかヴィルがここまで料理にハマるとは夢にも思っていなかった。

 特に趣味などないと言っていたので、熱中できる物事があるのはいいことなのだろう。


 それからニンジンのポタージュも、魚料理ポワソンも、肉料理ヴィアンドも、どれもおいしかった。

 ヴィルは料理が運ばれてくるたびに、この野菜を切っただの、塩を少々振っただの、楽しそうに語っている。

 彼の話に耳を傾けながら食べる料理はとてもおいしかった。


 充実した時間というのはあっという間に過ぎてしまうもので、お別れの時間となる。


「ついに、明日からミシャが雪山へ行ってしまうのか」

「三日後に会えますので」

「長すぎる」


 あまりにも悲しげな表情を浮かべるので、ホリデー期間中は平気だっただろう、とは言えなかった。


「ミシャ」

「はい」


 真剣な眼差しでじっと見つめるので、自然と背筋が伸びる。


「な、なんでしょうか?」

「雪山では絶対に無理はするな。自分の命を守ることを最優先に、何事も行動してほしい」

「はい、わかりました」


 自信たっぷりに返事をしたつもりだったが、ヴィルは不安げな表情を浮かべる。


「やはり、心配だ。ついて行きたい」

「いや、無理ですよ」


 親のコネを使ったらどうにかできるとブツブツ言っていたが、信じて待っていてくださいと訴えると、シュンとしながらも頷いてくれた。

 

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