表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/359

おやつを買おう!

 続いて目指すのは、貴族御用達のおかし屋さんである。


「なあ、ミシャ。どうして安いその辺の菓子店じゃだめなんだ?」

「あまり砂糖が使われていないからよ」


 もしも雪国でキャラメルを食べようと思って携帯し、でかけていたら、その人は驚愕することになるだろう。

 なぜかといえば、カッチコチに凍ってしまうから。


「凍りにくい食べ物があって、それは砂糖がたっぷり使われたお菓子なの」


 とくに、ここで売っているカステラに似たお菓子は、他のお菓子よりもたくさんの砂糖が使われている。


「たぶん、あのケーキくらい甘かったら、完全に固まらないはず」


 カステラ似のケーキは、レヴィアタン侯爵家に滞在しているさいに、三時のおやつとしてだされたのだ。

 生地はふかふかで、卵の味わいが優しく、そして甘い。表面にはザラメが散らされていて、ざくざくとした食感も楽しめる。

 いただいた瞬間、思わずこれは雪山にも耐えうるお菓子だ、と心の中で確信していたのだ。


 店内に入ると、ガラスケースの中にさまざまなケーキが並べられていた。

 リンゴのタルトに、ベリージャムタルト、チョコレートケーキに、チーズタルトなどなど。

 その中に、長方形の形をした、カステラに似たケーキが並んでいた。それは卵ケーキと呼ばれているようで、お店の一番人気だと書かれていた。


「なあミシャ、ケーキ以外で、雪山に適したお菓子とかあるのか?」

「ナッツ系はいいと思うわ」


 ちょうど、瓶に入ったナッツが量り売りされていた。

 別の棚にはジャムや練乳、蜂蜜などもあって、そこにも注目する。


「練乳も凍らないはずだから、オススメよ」


 ナッツにたっぷりかけて食べたらおいしいだろう。


「うわあ、ぞっとするほど甘そうだな」

「でもその甘さが、雪山では必要なのよ」


 気温が低い環境では、体温が下がらないようにエネルギーを消費する。

 その結果、知らないうちに体力を消耗し、くたくたになってしまう。


「いつも通り食事を取っていたつもりでも、雪山ではぜんぜん足りないの。だから、おやつが必要なのよ」


 その辺は授業でも教えてくれたけれど、先生は「雪山ではよくお腹が空くから、お菓子を食べておくように」としか言っていなかった。

 その辺もきっちり知識を叩き込んでおかないと、おかしを食べる習慣があまりない生徒が倒れてしまいそうで心配だ。


「なるほどな~。ミシャの話は先生の授業よりもわかりやすいな」

「雪国育ちだからね」


 卵ケーキやナッツ、練乳の他にも、蜜漬けにしたドライフルーツも購入し、店をあとにしたのだった。


「いやー、おやつ代が多いな、って思っていたら、そんな理由があったんだな」

「そうなのよ」

「勉強になったわ」


 雪山で食べるおやつの意味を生徒が理解していないなんて、大問題である。

 去年、騒動があったと言うけれど、教育指導にも問題がありそうだ。


「ねえミシャ、他にも、雪山で気をつけなければならないことなどありますの?」

「あるわ」


 それは雪山ではしゃぎ倒した男子生徒がやりそうなことである。


「雪を食べることよ」


 雪遊びをするさいに、喉が渇いたからと言って雪を食べる者がいるのだが、それは大変危険な行為なのだ。


「雪を口の中で溶かすのに、活動力を消費してしまうのよ。さらに、冷えた体を温めるために体力も削ってしまう」

「うわあ、いいことないやつだ」

「そうなのよ」


 私の注意を聞いていなければ、雪を食べていたかもしれない、とエアは言う。


「いや、雪に練乳をかけたらおいしそうだなって思って」

「それは家の暖炉の前ですることなのよ。やりたかったらいつでも言って。雪は用意できるから」

「さすがミシャだ」


 あとは凍傷にも注意しないといけない。


「肌の露出は最低限に、手袋なしで作業をするなんて、もってのほかよ」


 魔法学校の外套があるので、ある程度は魔法で防寒されるだろうが。


「顔もなるべくマフラーを鼻くらいの位置までぐるぐる巻きにして、目元は保護眼鏡で覆う、くらい厳重だったら安心できるわ」


 おそらく、課外授業でいく雪山はラウライフほどの厳しい場所ではないだろう。

 けれども用心に越したことはない。


 エアとアリーセが静かに私の話を聞いていたので、ハッとなる。

 アリーセは雪山にいくことを不安がっていたので、余計に怖がらせてしまっただろうか。


「ごめんなさい。雪山を怖がらせるようなことを言ってしまって」

「そんなことはありませんわ。情報を知れば知るほど、用心を重ねたら、不安を抱くような場所ではないとわかりましたので」

「ミシャのおかげだな」

「アリーセ、エア……ありがとう」


 わからなかったことが、もっとも怖い、とアリーセは言う。


「わたくしは今日、いろいろ準備をし、ミシャから話を聞く中で、雪山課外授業が楽しみになってきましたわ」

「俺も!」

「だったらよかった」


 雪山は恐ろしい場所だが、対処方法がわかっていたら安全なのだ。

 きっと皆で助け合えば、乗り越えられるものなのだろう。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ