ギルドの本登録をしよう!
ギルドに戻り、依頼主のサイン入りの羊皮紙を先ほどの強面ギルド職員に提出する。
「ほう、この依頼を選び、遂行できたというのか。大したものだ」
すべてはジェムのお手柄である。
大活躍をしたジェムだったが、ギルドの人の多さに驚いたからか、細長く伸びて私の背後に隠れていた。正面から見たら、使い魔がいるなんて誰も気づかないだろう。
ジェムの自由過ぎる行動について、エアは慣れているものの、アリーセは驚いていた。
私が普段、よく小脇に抱えて持ち歩いている、薄く伸びたジェムを丸めた物は、学習用のマットだと思っていたらしい。あれもジェムだと教えてあげると、目を丸くしていた。
強面ギルド職員は革のトレイに銀貨を二枚置いて、私へ差しだしてくれる。
「報酬である銀貨二枚だ」
報酬の上乗せについては羊皮紙に書かれていたようで、きっちり反映し銀貨二枚を支払ってくれた。
「続いて、本登録を行う」
本登録も水晶に手をかざすだけでいいらしい。
「使い魔などを使役している場合は、報酬が上乗せになるがどうする?」
「えーっと、それは、おいしい話には罠がある、的なことでしょうか?」
「まあ、否定はできない」
なんでもそれは有事の際に呼び出され、ギルドの指示に従って動かなければならないシステムらしい。
「依頼を達成したあとに得る報酬に、二割ほど上乗せされる形になるが、どうする?」
「いや、いいです」
ギルドに登録してバリバリお金稼ぎをしたいわけではないので、お断りさせてもらった。道具屋に行くためにギルドにやってきたわけだが、こういうふうにお金を得る生き方もあるのだな、と思ってしまった。
何者にも囚われない、その日暮らしも悪くないような気がする。
どこかに家を借りて、ジェムと二人で生活するのもなんだか楽しそうだ。
と、妄想をしているうちに、本登録が完了した模様。
ギルドの証などは特になく、情報は水晶にかざして確認できるらしい。
「水晶には、これまで受けた依頼や、得た報酬、ランク情報なども確認できる」
試してみるといいと言われたので、水晶で読み取ってみる。すると、銀ランクになるまで上級クラスの依頼を五百件以上達成せよ、的な情報が浮かび上がった。
毒草むしりは初級扱いのようなので、上級となったらどれだけ過酷な依頼をこなさなければならないのか、とゾッとしてしまう。
別に冒険者になるつもりはないので、ギルドについては頭の片隅に追いやっておこう。
ひとまずお礼を言って、ギルドをあとにした。
「ふーーーーーー!」
無事、ギルドに登録できたので、道具屋で雪山用の装備を購入できるだろう。
ここで、エアが指摘する。
「そーいや、店の中に入れるのはギルドに登録しているミシャだけか?」
「あ、言われてみればそうかも。二人の分も買ってくるから、どこか近くにある喫茶店で待っていてくれる?」
「き、喫茶店、二人でですか!?」
アリーセは頬を染め、恥ずかしそうに聞いてくる。
そんな反応を見たエアは、鈍感な反応を見せる。
「あー、俺みたいな平民と喫茶店に入るのは恥ずかしいか」
間に割って入らなければ、と思ったが、アリーセはすぐに言葉を返す。
「いいえ、違いますわ! 二人っきりだと、少し照れてしまう、というだけです! 恥ずかしいわけではありません!」
アリーセがまくし立てるように言うので、エアは圧倒されていた。
けれどもそれは一瞬で、溌剌とした様子でニコッと笑った。
「だったらよかった。あー、じゃあ、どうするか? ここでミシャを待っておくか?」
「いいえ、喫茶店で待っておきましょう。ここでわたくし達が待っていたら、ミシャを急かしてしまいますので」
「それもそうだな」
ここで、アリーセがハッとなる。
「ミシャ、一度休憩をしてから、お買い物に行きますか?」
「いいえ、大丈夫。お買い物のあとにゆっくりしたいから、先に喫茶店に行ってちょうだい」
「荷物持ちはいいのか?」
「ジェムがいるから」
エアは今になって、三十袋分の毒土を所持しているジェムの存在を思い出したようだ。
「ミシャ、装備用の代金は先に渡しておきますか?」
アリーセは両親から、エアは保護者であるミュラー男爵から貰ったお金を持ってきているらしい。
「値段がわかってからいただくわ」
ひとまず、先ほどいただいた報酬があれば十分足りるだろう。
「じゃあ、俺たちはお言葉に甘えて、喫茶店で待っているから」
「ミシャ、よろしくお願いいたします」
「ええ、任せて」
ぎこちない様子で並んで歩くエアとアリーセを見ていると、青春だな、としみじみ思ってしまう。
なんて、ニヤニヤしながら眺めている場合ではなかった。私は雪山用の装備を買うという重要な任務を担っているのだ。
道具屋のドアノブに小さな水晶が置かれていた。これに手をかざして、ギルドに登録している者だという証明し、入店するのだろう。
ずっとどうやって客は出入りしているのか謎でしかなかったが、すぐに解決できた。
そっと水晶に手をかざすと、扉が自動で開く。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは、ドワーフ族のお姉さん。
店内には武器や防具、回復アイテムに魔道具など、さまざまな商品が並んでいる。
「何をお求めですか?」
「雪山で使える装備って置いてますか?」
「あちらです」
取り扱いがあるようで、ホッと胸をなで下ろす。
欲しかった品はすべてあったものの、ラウライフで買うより三倍以上高い。
結局、三人分揃えて銀貨三枚分となった。
今日は所持金をそこまで持っていなかったのだが、作り置きしていた魔法薬を買い取ってもらって、なんとか払うことができた。
「すばらしい魔法薬の数々です。よろしければ、また売りにいらしてくださいね」
「は、はあ、機会がありましたら」
購入した物はすべてジェムに預け、私はお店をでたのだった。




