任務、毒草を処理せよ!
「毒草をむしって処分するなんて、私達には無理よ」
そう言い切った瞬間、依頼主はシュンと肩を落とす。
エアやアリーセも、そうだろうな、という表情を浮かべていた。
「でも、ジェムだったら、安全に草むしりができるかもしれないわ」
「あ、そっか。俺たちには無理でも、ジェムだったらできるかもしれない」
「ミシャ、ジェムは連れておりませんよね?」
「ええ、でも、召喚魔法でここに呼べるはず」
これまでジェムを一度も召喚したことはなかったが、挑戦してみよう。
ベルトに差し込んでいた杖を手に取り、集中し、呪文を唱える。
「――いでよ、ジェム!」
魔法陣が浮かび上がって発光したものの、ジェムは現れない。
その様子を見て、がっかりしてしまう。
「ジェムったら……」
かなり気まぐれな性格で、私の言うことを聞かない日もある。
まさかそれが今日だったなんて、と思っていたら、地上に丸い影が浮かんだ。
「おい、ミシャ、あれ!」
「丸い物体が降ってきましたわ」
「えっ、ちょっ――!?」
魔法陣が浮かんでいた辺りに、巨大な球体が落ちてきた。
着地時は潰れず、そのままの形を保っている。
当然ながら、その球体には見覚えがありすぎた。
「ジェム、あなた、飛んでやってきたの!?」
そうだ! とばかりにジェムは頷いた。
「ど、どうして?」
問いかけてもジェムは小首を傾げていたが、その理由についてアリーセが推測する。
「召喚で呼んだらミシャの魔力が消費されてしまうので、自らやってきたのでは?」
「ああ、なるほど、そういう意味だったのね」
ひとまず、ここまで来てくれたので、いい子、いい子と頭を撫でておく。
すると、嬉しそうにチカチカ発光していた。
私は依頼主を振り返り、説明してみる。
「あの、私の使い魔が毒草をむしれるか、試してみますね」
「あ、ああ、頼む!!」
一刻も早く毒草とお別れしたい依頼主は、涙目で頷いていた。
なんとか毒草を撤去できたらいいのだが。
私はジェムの前にしゃがみこみ、話しかけてみる。
「ねえ、ジェム。あなた、毒は平気?」
私の問いかけに対し、ジェムはこくりと頷いた。
どうやら、ジェムは毒の耐性があるらしい。
「だったら、ここにある毒草を根っこからむしり採ることはできるかしら?」
ジェムは任せろ! と言わんばかりに、触手を二本伸ばして丸を作ってくれた。
毒草むしりは可能なようで、ホッと胸をなで下ろす。
ここで、もう一点の問題点についてアリーセが問いかけてきた。
「ねえ、ミシャ。むしった毒草の処理はどうしますの?」
「ああ、それはホイップ先生にお願いしようと思って」
ホイップ先生は以前、ガーデン・プラントに毒草園を作りたい、という野望を語っていたのだ。
「ど、毒草園の構想があったのですね」
「ええ。自然界から毒草を探すのは骨が折れるみたいで」
当然ながら、毒草園を学校内の敷地に作る許可が下りるわけもなく、ホイップ先生の夢で止まっているようだ。
毒草を燃やすのはダメ、埋めるのもダメならば、専門家に託せばいいのだ。
そんなわけで、私はすぐさま、ジェムに毒草むしりをお願いする。
すると、ジェムはすぐさま複数の触手を伸ばし、次から次へと毒草を引き抜いていった。
むしった毒草は依頼主が用意していた革袋に詰められていく。
あっという間にジェムは庭の毒草すべてを除去してくれた。
「す、すごい……! 毒草が一瞬でなくなった」
感激しているところに水を差すことになるが、一応注意しておく。
「あの、たぶん土も毒に汚染されていると思いますので、入れ替えたほうがいいかもしれません」
依頼主は愕然とした表情を浮かべる。
「あ、あの、追加でもう一枚銀貨を払うから、土を撤去してくれないか?」
土を入れる麻袋もあるようで、すぐに用意してくれた。
ジェムに飲み込んで運べるか聞いてみたら、大丈夫だと頷く。
「わかりました。使い魔にやらせてみます」
「ありがとう! 助かるよ!」
ジェムにお願いすると、触手をスコップの形に変化させ、次々と麻袋に詰めていく。
毒がある範囲だけ撤去したようだが、麻袋三十個分ほどになった。
これもきっとホイップ先生がどうにかしてくれるだろう。そう信じておく。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
依頼主は涙で瞳を潤ませながら、感謝してくれた。依頼主が羊皮紙に署名すると、〝任務完了!〟と書かれたスタンプのようなものが浮かび上がった。
「これを持ってギルドに行ったら、報酬を貰えるはずだから」
「はい、ありがとうございます」
ジェムのおかげで無事、依頼を遂行できたわけだ。