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ギルドの依頼

 ギルドに登録していると、宿やアイテムが割引になったり、食堂でサービスを受けられたり、とさまざまな優遇システムがあるという。

 サービス目的に登録する者がいては困るので、仮登録をしたのちに、依頼をこなす能力があるのか確かめる試験のようなものをするらしい。


「あの、ミシャ。そういえば、校則に就学中の労働は許可がないとできない、みたいな決まりがありませんでしたか?」

「そういえば、あったわね」


 一応、私は労働する許可は得ている。

 二人を校則違反にしてしまうのは申し訳ないので、私のみ登録することにした。


「わかった。ではまず、この水晶で能力の一部を読み取らせていただく」


 ギルド側が用意した水晶では、属性や戦闘能力などを読み取り、ランクを振り分けるようだ。


「ランクは三種類あって、金、銀、銅だ」


 実績によってランクが変わるようだ。まずは皆、銅からのスタートというわけである。

 仮登録は水晶の前で名前を言ったあと、手をかざすだけでいいらしい。

 まずは私から。


「ミシャ・フォン・リチュオル」


 水晶に手を近づけると、古代語で雪、という意味を持つ文字が浮かんできた。

 ランクは銅である。


「お前の情報は仮登録された」

「ありがとうございます」

「仮登録が終わったら、初心者用の掲示板で依頼をこなしてくれ」


 依頼に挑むさいはなるべく新しいものを選ぶといい、と助言してくれた。

 熊に似たおじさんは強面だったが、話してみると親切だった。

 お礼を言って、掲示板へと向かってみる。

 そこには大勢の人だかりができていて、ギルドに仮登録する人の多さを物語っていた。

 掲示板には依頼が書かれた羊皮紙が貼り付けられている。

 達成できそうな依頼を選んで羊皮紙を掲示板から取り、傍にある水晶で魔法陣を読み込ませたあと、手をかざすだけでいいらしい。

 なんだか前世にあったQRコードみたいなシステムだな、と思う。


「どんな依頼がいいのかしら?」

「まあ、魔物の討伐とかは無理だろうけどな」

「王都の外に出る許可はもらっておりませんものね」


 王都内でできる依頼などあるのだろうか。

 人々の隙間から掲示板を読み取ってみる。


「排水溝に詰まったスライム退治――九十歳のおじいさんの初恋相手の捜索――いなくなった鳥探し――新作魔法薬の治験」


 どれも難しそうな依頼ばかりである。


「治験は即日で解放されるようだけどな」

「安全が確保されていない魔法薬を口にするなんて、ゾッとしますわ」

「本当に」


 突然、おお! と歓声が上がった。何かと思いきや、ギルドの職員が新しい依頼を貼りにやってきたようだ。皆、そちら側に集中してしまう。大柄な男性が多いので、近づけそうにない。

 その代わりに、残っていた依頼が見えるようになる。

 チャンスだとばかりに、私達は駆け寄って依頼を確認した。


「ミシャ、見てくださいませ。庭の草むしりのお仕事がありますわ」

「おお、よさげな依頼だな」

「ええ、私にもできそう!」


 庭の広さは畳十畳分くらいで、報酬は銀貨一枚、とそこそこいい。

 すぐさま羊皮紙を取り、水晶で魔法陣を読み取る。続いて手をかざし、依頼を受注した。

 羊皮紙の裏面には、依頼主の住所が書かれていた。ここから歩いて五分ほどの場所にあるようだ。

 すぐさま移動し、依頼主と会う。

 依頼主は私達を見るなり、ホッとした表情を浮かべていた。


「ああ、よかった! 魔法学校の生徒さんが引き受けてくれたのか!」


 〝よかった〟とは?

 意味がわからないまま、庭へ案内される。


「半年くらい前から依頼を出していたんだけれど、誰も達成できなくってねえ」


 勇気のあるエアが、それはどうしてか聞いてくれた。

 振り返った依頼主は、にっこり微笑みながら言った。


「見ればわかるだろう」


 私とエア、アリーセは同じ方向に首を傾げる。

 案内された庭は、思っていたよりも狭い。

 ただ、半年以上放置されていたようで、雑草が生え放題だった。

 そして、半年も依頼が遂行されなかった理由に気づいてしまう。


「ミシャ、どうしたんだ?」

「何か不都合でもありまして?」


 まだ薬草学をしっかり学んでいない彼らがわからないのは無理もないだろう。


「これ、全部毒草だわ」

「え!?」

「なっ!?」


 触れただけで火傷をしたように皮膚がただれてしまうものや、花粉を吸い込んだら失神してしまうもの、根っこに有毒物質があるものに、葉を煎じると猛毒になるものなど、ありとあらゆる毒草が自生していた。


 私は震える声で依頼主に問いかける。


「あの、どうしてこのような種類豊富な毒草がここに?」

「前の家主が育てていたようでね、知らずに買ってしまったんだ」


 最初は家主が草むしりをしようとしたらしいが、手がただれてしまったので、思いとどまったらしい。

 ギルドに依頼したものの、やってきた人達が次々と体調不良になったり、手が荒れたりと体に異常がでたため、任務を遂行できる者がいなかったようだ。


「一応、毒草ばかりの庭だと気づいてからは、ギルド側に知らせていたんだけれど、毒草だと書いた途端に誰も来なくなってしまってね」


 あまりにも人がこないので、ただの草むしりのお仕事として登録し直したという。

 一応、訪れた者達には毒草だと知らせていたようだが、ほとんどの者達が回れ右をして帰ってしまったらしい。


 ちなみにむしった毒草をどうにかするまでが依頼だという。

 なんでも王都の決まりで、毒草を燃やしたり、埋めたりして処分することは禁じられているからだとか。


「ミシャ、どうする?」


 不安げな様子でエアが問いかけてきた。

 

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