お出かけしよう!
あんこが余ったので、もう一品作ってみよう。
これも前から、食べたいな~と思っていたものである。
材料は小麦粉、蜂蜜、卵、水、ふくらし粉――それらの材料をボウルに入れて混ぜ、フライパンで焼いていく。
パンケーキよりも一回りほど小さいくらいの量がちょうどいいだろう。
表、裏ときつね色になるまで焼いたら、バットに移して粗熱を取る。
生地が冷えたらあんこを挟む。どら焼きの完成だ。
もう時間も遅いし、食べるのは明日にしないと、と思っていた。けれどもいざ、どら焼きを前にしてしまったら我慢できない。
台所で立ったまま、どら焼きを頬張ってしまった。
「んん!」
生地はふっかふかで、甘めに煮込んだあんことよく合う。
二個目も食べたくなったが、さすがに太ると思って我慢した。
完成した羊羹とどら焼きは、油紙に包んでジェムに預けておく。
ジェムの体内に預けた食べ物は時間が止まるようで、腐ったり、傷んだりしないのだ。
手作りのおやつはこれくらいでいいだろう。
明日はアリーセやエアとお出かけなので、早めに休むことにした。
◇◇◇
今日は初めて、学校の友達と外で買い物をする。
外出許可は雪山課外授業に必要な品を買いに行きたい、と言ったらすぐに取れた。
王都にある商店の中には、魔法学校の生徒に対する割引があるという話を聞いていたので、制服で行こう、と話し合っていたのだ。
外出用の服を選ばなくてもいい、というのはオシャレ初心者の私にはありがたい話である。
身なりを整え、髪を結い、トーストにバターを塗っただけの簡単な朝食を済ませた。
集合場所は中央馬車乗り場である。予約をすると、街に向かう馬車に乗ることができるらしい。知らなかった。
ジェムは台所で薄く伸びていたのだが、一緒に行くか聞いてみると、触手を左右に振ってご遠慮します、とばかりのリアクションを返してきた。
今日は出かける気がないらしい。
「じゃあ、お留守番、お願いね」
ジェムの見送りを受けながら、出発したのだった。
約束の時間十分前だったが、すでにアリーセはいた。
「アリーセ、お待たせ」
「いいえ、わたくし、今来たところでしたわ」
「そう、よかった」
お出かけをアリーセは楽しみにしていたようで、今日は日の出前に起床していたらしい。
「そもそも、街へお買い物へ行くのも初めてですし」
「えっ!? そうだったの?」
何か必要な品があれば侍女が買いに行ってくれるし、欲しい品物があれば商人が家を訪問するという。そういえば、お金のある家はそうだったな、と思い出した。
「わたくし、上手くお買い物ができるでしょうか?」
「もちろん! 教えてあげるから、安心して」
「ミシャ、ありがとうございます」
そんな話をしていたらエアもやってきたわけだが、アリーセは彼にも今来たところだと言っていた。その台詞は相手に気を遣わせないための配慮だったようだ。
予約していた馬車に乗り込み、商店街を目指す。
「よかったよ。雪のある環境に慣れているミシャが、買い物に付き合ってくれて」
アリーセだけでなく、エアも心配していたらしい。
「学校側が防寒道具は用意してくれるっていう話だけど、聞いてみたらマフラーとかセーター、長靴とか、さほど工夫してあるとは思えない品ばっかだったから」
一応、魔法学校のローブには防寒魔法がかけられている。けれども露出している部分は寒いだろう。
「少なくとも、耳当ては必要ね。ああいう雪山は、耳が千切れ落ちるんじゃないかってくらい、きんきんに冷えて痛くなるのよ」
「耳が痛くなるとか、聞いたことがないんだけれど」
「びっくりするわよ」
あとは帽子もあったほうがいい。
「毛皮の耳当てがついた帽子があればいいのだけれど」
雪国ではモフモフとした帽子が最強だろう。
「他には、スノーシューっていう、雪の上をサクサク歩ける装備もあったほうがいいわね」
エアとアリーセはスノーシューを知らないようで、キョトンとしていた。
「スノーシューというのは、靴に装着させる歩行具よ」
雪の上を歩く際は足が深く沈んでしまう。けれどもスノーシューがあれば、浮力を高めて、雪上をスムーズに歩けるようになるのだ。
「へえ、そんな便利な道具があるんだな」
「知りませんでした」
あとは、靴に雪の侵入を防ぐゲイターや、毛糸の靴下、雪の反射光から目を守る保護眼鏡、手袋などなど、必要な品はいろいろある。
ひとまず、品揃えが王都一だという雑貨店に向かうこととなった。
魔法学校の講堂よりも大きな店舗には、さまざまな品が陳列されている。
生活用品から、食品まで、豊富な品揃えだ。
このような規模のお店でいちいち商品を探していたら、埒が明かない。
そんなわけなので、店員に話を聞いてみる。
「スノーシュー? うちでは取り扱いがないよ」
早速、壁にぶち当たってしまった。