魔導カードの扱いについて
ヴィルが引き当てたカードは、〝炎帝赤竜エクスプロシオン〟。
見るからにかっこいい。
カードに書かれたレアレベルを示す星は、八個もある。
一方、私が当てた火属性のカードには、〝必殺! バースト・スーパー・ストーム!!!!〟と書かれてあった。
無駄に熱そうな名前である。
ちなみに、星の数は三。まあ、この辺りはよく引き当てるノーマルカードなのだろう。
「うわあ、ヴィル先輩の赤竜のカード、かっこいいですね!」
そんな感想を述べると、ヴィルは無言でカードを差し出してくる。
好きなだけ眺めてもいい、と言っているのか。
ウルトラレアのカードなんて、二度とお目にかかれないだろう。
そう思って、お言葉に甘えて手に取ろうとしたそのとき――。
ぱちん! と小さな雷が散った。
もちろん、痛みなどない。突然のことだったので驚いてしまう。
「え、今の何?」
そう呟いたのと同時に、目の前に赤字の忠告文が浮かび上がった。そこに書かれていたのは――〝魔導カードの譲渡、売買は禁止されております。もしも他人が何度も手にしようとした場合、雷が落ちますのであしからず〟 とあった。
「なんだ、これは」
「転売対策でしょうね」
子ども達のために作った魔導カードが悪用されないように、しっかり対策を打っていたようだ。
「手に取ってじっくり眺めてみたかったのですが」
「見るだけだったのか? 私はミシャにあげるつもりで差しだしたのだが」
「いやいや、貴重な魔導カードを、あっさり手放そうとしないでくださいよ!!」
心からの叫び声をあげてしまう。
ヴィルは物に執着がない男性だと思っていたが、赤竜のカードまで必要ないと言い切るなんて。
「もともと、ミシャが貰っていた品だろうが」
「引き当てたのはヴィル先輩ですので」
「私が開封していなければ、赤竜のカードはミシャの物だったのに」
ションボリしているヴィルの背中を、気にするな、という念を送りながらポンポン叩く。
何はともあれ、魔導カードは引き当てた本人にしか使えないことが明らかになった瞬間であった。
この魔菓子は、取り扱い説明書をしっかり読んでおいたほうがよさそうだ。
パッケージを裏返すと、びっしりと文字が書かれていた。
なんでも使用するさいは端に書かれてある魔法陣に触れ、カード名を思いっきり叫ばなければならないようだ。
私の場合は、「必殺! バースト・スーパー・ストーム!!!!」である。
なんというか、とても恥ずかしそう。おそらく使うことはないだろうな、と思った。
読み進めていくと、最後の行に驚くべきことが書かれてある。
なんと、魔導カードはランダムで引き当てるシステムだが、開封した瞬間にカードが召喚される仕組みらしい。
「あ、これ、最初からカードが封入されているわけではないようですね」
「なるほど。本人の幸運値をもとに、カードを振り分けているというわけだったのか」
つまり、ヴィルはとんでもなく幸運の持ち主、ということになる。
リンデンブルグ公爵家に生まれ落ちた時点で、かなりの強運だったのだが。
「つまり、私がヴィル先輩の魔導カードを開封しても、赤竜を引き当てることはできなかったというわけです!」
「このカードは私が所持しておくしかないようだな」
ヴィルはそう呟きながら、カードを生徒手帳に収納していた。
私もカードを生徒手帳に入れておこう、と思ったが、胸ポケットに入っていない。
仕方がないので、ジェムに預かってもらうことにした。
その後、ヴィルと共にガーデン・プラントに戻り、温室にある薬草のお世話をしたあと、夕食を一緒に作って食べ、勉強をする。
いつものルーティンが終わってヴィルを見送ろうとしたのだが、なんだか寂しげな表情を浮かべているのに気づく。
春といえど、夜は冷える。早く帰らないと、風邪を引いてしまいそうだ。
ただ、よくよくヴィルを見ると、体中にモモンガが張り付いているので、実は温かいのかもしれない。
「ヴィル、どうしたのですか?」
「いや、もうすぐミシャが雪山課外授業に行って、会えなくなることを考えたら辛くなって」
たかが数日、会えないだけなのにこの落ち込みっぷりはいかがなものか。
まるで数年の別れを切り出された恋人のようである。
「魔法の手鏡で連絡しますので」
「ああ、それがあった!」
ヴィルは途端に嬉しそうな表情を浮かべる。
夜になったら、会話をする余裕も出てくるだろう。
なんて考えていたら、ある大変な事実を思い出してしまった。
「あ! そういえば――」
「どうした?」
明後日の方向を向く私の肩をヴィルはガッシリ掴んで、猛禽類のような鋭い眼差しを向ける。
ここは正直に打ち明けたほうがいいだろう。
「あのー、そのー、実は、ヴィル先輩の弟――ではなく、妹君のノアさんと、雪山課外授業でペアになってしまいまして」
「なんだと!?」




